第29話 ララ奇行
露店で買ったクレープを頬張り、なんとも幸せそうな声でタリアが言う。
「おいしーいっ!」
「生きているからこそ、味わえるというものだ。仲間殺しがパーティから出なくてよかった」
俺は心底そう思った。
「ところでタリア、口の端にクリームがついてるぞ?」
「えっどこー?」
ぺろぺろと、小さな舌でクリームを舐め取ろうとするタリア。
「そっちじゃない。なんと下品な……」
仕方ないと、俺は指で拭ってやる。
「えへへ、ありがとー!」
「まったく、さすがにはしゃぎすぎだぞ……。なあライナライア」
そう言いながらライナライアの方を向くと、なぜか彼女はクレープを頭から被り、クリームまみれのひどい有り様となっていた。
「お前はクレープそのものと化しているなクレープモンスター!? 三角帽子ではないのだぞ!? 何がどうすればそうなるのだ……。ほら、俺のハンカチを貸してやるから拭え」
「私のクリームは指で拭ってはくれないのか?」
「指でどうにかなる量じゃないだろう……。それともなんだ、新手の嫌がらせか?」
「チッ」とライナライアが舌打ちする。
理由はわからないが、随分と嫌われたものだと俺は思わされるのだった。
クレープも食べ終え、雨上がりのキラキラとした大通りをぶらぶら目的もなく散策していると、前から小さな女の子が走ってくる。
そして皆の目の前で石畳の角が立った部分に躓き――。
「あっ」
水溜まりにダイブ――しそうになったところを、俺はすかさず抱き止めた。
「大丈夫か?」
ポッと頬を赤らめ、少女が礼を述べる。
「あ、ありがとうございます……」
「まったく、不注意が過ぎるぞ。これだから庶民の子は。……ああ、顔に泥が跳ねているではないか。これからは足下と水溜まりに気を付けて遊ぶがよい」
「……はい」
俺が予備のハンカチを取り出し、彼女の顔の泥を拭っていると突然――。
バッシャァン!
背後から盛大な水の跳ねる音が。
驚いて振り向くとそこには――。
「私も泥で汚れてしまった」
「マッドゴーレム!?」
「私だ」
「お前か。いやわかっている! 何をしているのだこの馬鹿者!」
――そう、なぜかそこには泥まみれのライナライアが居たのだ。
「……私の泥は拭ってくれないのか?」
「あいにくハンカチは二枚しか持ち合わせていない! その前にもはや拭ってどうにかなるものではないだろう!?」
「……確かにな」
ライナライアの泥汚れはタリアが水魔法であらかた流し、火と風の合成魔法による温風で乾かした。
リックスも呆れている。
「なんつー才能の無駄遣い……」
「ご迷惑お掛けしました」と、ライナライアはタリアやみんなに謝罪した。
一体彼女は何がしたかったのだろうか。
女とはわからぬものだと、俺は思い知る。
時刻はそろそろ午後三時。
寮には門限があるため、五人は余裕を持って切り上げた。
再び学園前に戻ったところで俺は皆に言う。
「今日は有意義な時間を過ごせた。買い物もだが、皆のことを以前よりも多少は理解できたように思う。タリア、君の提案のお陰だ」
「そうかなーてへへー」
「照れずともよい。明日の試験、共に合格しよう」
この言葉に皆一様に頷いた。
そして迷宮試験当日。
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