第28話 刺客

 雨はいつしか止んでいた。

 俺達は買い出しを再開する。

 だがもうすでに必要であろう物はあらかた購入済みだったため、俺とリックスはほぼ女子の趣味の買い物に付き合わされる形となっていた。

 洋服屋にて、タリアが商品の帽子を試着して訊ねる。

「えへへっ! ハルノ君、この帽子どうかなっ? 似合うっ?」

「うむ、似合っているぞ。だがこちらの髪止めの方が似合いそうだな」

「あっかわいい! つけてみるね! ……どう?」

「やはり似合っている」

「じゃあ買っちゃおっ! えへへーっ」

 これにライナライアも続いた。

「では私もその髪止めを買おう」

「……つけてみなくていいのか?」

「いい」

「そうか……」

 きっとタリアとお揃いならなんでもいいのだろうと、徐々にライナライアのことを理解してきた俺はそう解釈する。

 商品を購入して店を出ると、ちょうど隣の路地から「ニャー」と猫が顔を出して鳴いた。

「……猫か。かわいいヤツめ」

 俺は人差し指を出し、猫と鼻先挨拶をしてからまず首を。

 次に頭、そして尻尾の付け根の順に撫でる。

 それを見ていたライナライアが、何を思ったのか「にゃ、ニャー……」と言った。

 一体どういうつもりなのか。

「……なんか言ったか?」

 やんわりと訊ねてみたが、ライナライアはぶっきらぼうに「別に」と答える。

 だが一部始終を見ていたタリアは何かに気付いたようで――。

 ニヤニヤとし、わざとらしく驚いてから言った。

「あっそっかぁっ! ニャーって鳴けば猫みたいに撫でて貰えると――」

「――タリア様ぁっ!?」

 次の瞬間ライナライアは目にも止まらぬ動きで、タリアの口を手で封じる。

「んーっ!? もがもがっ! もごーっ!?」

 タリアは何か伝えたいようだが、何を言っているのかはわからない。

 次第に彼女の声は小さくなっていき、最後はぐったりとした。

 リックスが恐る恐るといった風に訊く。

「あのさ、ララちゃん……」

「なんだ?」

「それ口だけじゃなくて鼻も押さえてね?」

「えっ……あっ」

 タリアは腕を樹脂でできた人形のようにだらりと垂らし、白目を剥いて、口の端から泡を噴き出していた。

 しーん……。

 俺はその可能性を指摘する。。

「ライナライアお前……刺客だったのか」

「そんな訳あるかっ!? タリア様!? タリア様ーっ!?」

 その後息を吹き返したタリアは、泡ではなくクリームを口の端につけ、満面の笑みを浮かべていた。

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