第26話 親交深まる
それから俺達は迷宮試験で必要になりそうな物を見て回った。
様々な店舗や露天も並ぶ大通り。
そこで探索に役立ちそうなアイテム、迷宮内で過ごすために必要なアイテム、そして各々装備の見直しをしたりと、真剣に品定めする。
自身のみならず、仲間の命もかかっているのだから当然だ。
だがその最中、突然天気が崩れ雨が降り出した。
「あそこのカフェで雨宿りをしようよっ!」というタリアの提案に乗り、カフェに一時避難。
天候を確認しやすい、ひさし付きのテラスに陣取って、それぞれ飲み物を注文すると雑談を始めた。
話題は自然と、明日から始まる迷宮試験に――。
「にしてもさ、地下迷宮の探索とかわくわくするよな! 死人も出るなんて聞いちまったら、ぶっちゃけ余計に燃えてくるよな!」
ノリノリのリックスをタリアは注意する。
「もーっ! あまり浮かれてると本当に死んじゃうかもしれないよっ!? ハルノ君からも言ってあげてよっ!」
しかし俺の反応は、彼女の思っていたものと違ったようで――。
「んっ? あっ、まあそうだな」
ニヤリとリックスが口角を上げた。
「ハルノもワクワクしてるってさ!」
「……すまない」
「もーっ!? 男の子なんだからっ! ……それにしてもさ、迷宮試験の間お風呂に入れないのヤダなぁ。ベルちゃんも嫌だよね?」
「平気。本に集中して三日食事を取らず、お風呂にも入らなかったことが
ある」
「女捨ててんなぁ!」と、リックスが笑い、「失礼だよっ!?」とタリアが注意する。
そんな中で懐かしむように、ライナライアが誰ともなくこう溢した。
「風呂か……。しばらく父上と風呂に入れていないが、家に帰ったら入りたいものだ……」
皆ギョッとしてしまう。
リックスはライナライアの顔と胸を交互に見てから言った。
「お前……その歳でまだ親と一緒に風呂入ってんのか?」
その口ぶりからそれが珍しいことだと気付いたライナライアは、信じられないといった表情で動揺しながら訊ねる。
「なにっ!? みんな実家で父と風呂に入らないのかっ!?」
タリアは目を逸らし、ベルはブルブルと肩を震わせながらもなんとか笑いを堪えていた。
そしてリックスはといえば無遠慮に大爆笑。
さらにはバカにする。
「あっはっは! おまっ、お子ちゃまかよっ!? 下手すりゃ赤ちゃんじゃん!? ってかまず恥ずかしくないのかよっ!? せめて下のお毛毛が生えて来たら親とお風呂は卒業しろよなっ!?」
「お毛毛はまだ生えていないっ!」
「ぶわっはっはっは! ! じゃ、じゃあセーフなんじゃね!? ヒーッ! ……いっ、息ができねぇっ!」
そう言われたライナライアはみるみる顔を赤くしていき、ついには俯いてしまった。
「あー面白っ! お前もそう思――」
そう俺へと同意を求めたリックスの言葉が止まる。
なぜなら俺がいつも通りの様子で、真顔だったからだろう。
飲んでいたコーヒーカップを置いてから、こう言ってやった。
「何を笑うことがある。親子水入らずの時間を作ることは大事だろう? 恥ずかしいからと親と関わることを蔑ろにする者が私達の年頃には多い中で、随分と立派な心掛けじゃないか。……気にすることはないぞ、ライナライア」
ライナライアは驚いた顔でこちらを見つめた後、すぐ我に返ったように「あっ……うっ、うむ……」と頷き、再び顔を赤くする。
彼女のこの反応に驚いたタリアだったが、すぐに優しく微笑んだ。
「……確かに、ハルノの言う通りだな。からかってすまん!」
リックスがそう頭を下げるとライナライアは――。
「いや、私も世間を知らなすぎたのかもしれない。皆の反応からするに、かなりズレていたのだろう」
そう素直に認めた。
さらに――。
「他にも私におかしなところがあれば今の内に言ってくれ! さあ! さあ!」
そう詰められ、リックスは「うーん」と一考してから捻り出した。
「……おかしいところっていうか、それとはちょっと違うんだが」
「どんな意見でも構わん! 気付いたことを言ってくれ!」
「えぇっと、ライナライアってさ、雰囲気とか表情が恐いというか、近寄りがたいんだよなぁ。悪いヤツじゃないんだし、もう少し親しみやすさがあればいいんだけどなぁ……」
「なるほど、親しみやすさか……」
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