第25話 休息

 翌日、学園前で集合した俺達第三小隊は、早速王都エナスカでも一番賑わう商店街へと向かった。

 もちろんベルも来ているが会話に参加もせず、またタリアやリックスが話を振っても1ターンで終わってしまう。

 その上ライナライアも、未だ俺に対しつっけんどんな態度のまま。

 そんな五人の前にかわいらしい幼女が現れた。

「あっ魔法騎士学園の人達だー!」

 自宅の庭で友達とおままごとをしていたその幼女は俺の前にやってくると、片手を差し出して言う。

「はいおにーちゃんお団子どーぞ!」

 それは彼女がおままごとで使用していた泥団子。

 俺はそれを手に取ると――。

「ふむ、これが庶民の食べ物か。……どれ」

「あっ」

 泥団子をひょいと実際に口へ放り込み、「もぐもぐ」と咀嚼した。

「ふむ、庶民の食べ物もなかなかだな。それとも、君が料理上手なのかもな。嫁に来ないか?」

 まさか泥団子を実際に食べると思っていなかったのだろう。

 そう言われた幼女は一瞬固まったのち、一気に顔を紅潮させた。

 リックスが呟く。

「……あいつ、やっぱいいヤツだな」

 タリアも「うん」と同意した。

「でもってナチュラルにキザというか、垂らしだな……」

「私も気を付けよう……」と、タリア。

 そしてそれを見ていたライナライアが、なぜかせっせと泥団子を作り始めた。

 そしてそれをこちらに差し出す。

「私も団子を作った。食べろ」

「ふむ、貴様のはただの嫌がらせだよな?」

「私のことは嫁に貰ってはくれないのだな。ロリコンか?」

「どうせ新婚初日から食事にでも毒を盛る気だろう?」

「バレたか」

 リックスがタリアに訊ねた。

「なあ、なんでこいつらこんなに仲悪いんだ?」

「え、えへへー? なんでだろー?」

 星剣絡みとは言えないタリアは、目を泳がせながら知らんぷりする。

「……誤魔化すの下手なお前。まあなんかあったってことか。ハルノは誤解されそうな言動が多いが、ライナライアの方が頑固さから怒ってるとか、そんな感じか?」

「さ、さあ~?」

 図星のようだなと、リックスは一人納得した。

 こういうところは本当に鋭い奴だ。

「難儀なヤツだなぁー」

「うん」

 幼女に別れを告げた後で、リックスが俺にこっそり耳打ちする。

「あ、そうだハルノ耳貸せ」

「どうした?」

「お前、ライナライアにやられっぱなしでイラつくだろ?」

「ま、まあ全然イラつかないと言ったら嘘になるな」

「じゃあいいこと教えてやるよ! あいつ硬派を気取ってるけどよ、実は甘いもの好きで、入学してすぐに食堂からスイーツが消えた事件があったろ? ライナライアが買い占めたせいらしいぞ! 脅しのネタに使えるだろ?」

「……ふむ、知ってるがそれがどうかしたか? なぜ脅しのネタになる?」

「へっ? いや、だって、イメージと違うし、本人もきっとそこは理解してるだろうし……」

 この返答が予想外だったのか、驚き、しどろもどろになるリックスへと続けた。

「入学初日に食堂のスイーツを食べた彼女が、あのいつも固い表情を嘘のようにとろけさせていたからな。甘いもの好きであるという察しはついていた。趣味趣向は人それぞれだ。好物ゆえについつい買い占めてしまったのだろう」

「はあああ」と長く嘆息してから、もはや声量もいとわずリックスが言う。

「せっ―――かく弱味を教えてやったのに、なんて人間が出来てやがる!? くそっ! いいヤツ! 超いいヤツ! 口は悪いけど! いいヤツめ!」

「あ、ありがとう?」

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