第24話 迷宮試験

 こうして、入学から二週間が過ぎる。

 俺が星剣に選ばれたことが面白くないのか、ライナライアからあからさまに無視をされたり、逆に当たりがより強くなったり、食堂からスイーツが消えたりと小さな事件こそあったものの、あのヘルハウンド襲撃以降特に大きな出来事もなく、平和で概ね順風満帆な学園生活を送っていた。

 そんな俺達新入生に、最初の大きなイベントが訪れる。

「今週の水(みず)と木(き)の星の日。諸君も待ちかねていた、迷宮での実地試験を行う」

 ブレジナのその言葉に、教室内がにわかに沸き立った。

 俺もその中の一人だ。

 ついに来たか。本当の入学式が――。

 管理されているとはいえ、モンスターが跋扈し、様々な罠が仕掛けられた危険と隣り合わせの実地試験。

 通称迷宮試験。

 この実地試験では脱落すれば、その時点で退学というあまりにも大き過ぎるペナルティが用意されている。

 しかし生還すれば、それだけで大きな評価に繋がるというメリットもあった。

 これこそがこの王立魔法騎士学園、本当の入学式と言われる所以である。

「諸君には五名一組の小隊を組んで貰うのだが、既にメンバーはこちらで決めてある。ではまず第一小隊……」

 第一、第二と発表されていく内に、どうやら席の近い者同士で組まれているなと皆察した。

 それから俺の名は、第三小隊で呼ばれる。

「リックス。ライナライア・べラミー。ハルノ・ターミア。タリア・フローライト。ベル・フォルサブ。以上五名だ」

 席が近いことと、タリアとその護衛役であるライナライアを離すことは無いとわかっていたため、ハルノには予想通りのメンツだった。

 ただ一人を除いて――。

「残念でございます。ハルノ様と同じ小隊になれず、私はあぶれてしまいました」

 席も隣り合い、てっきり同じ小隊になると思っていたアリネが入らなかったのである。

 更にその代わりが、例の四属性に適性を持つ天才魔法少女ベル・フォルサブであることも驚きだ。

 ベル・フォルサブか……。

 その才能とは裏腹に、影の薄いクラスメイトへとハルノは視線を向ける。

 何を考えているのか、読めない少女だな……。

 ブレジナは続ける。

「次に第四小隊。ルーベンス・シュヴァイツァー。マルクトー・テスベルク。パンジー・オールメイユ。アリネ。フィリップ・スミス。以上五名だ」

 呼ばれた者達が背筋を伸ばし返事をする中、マルクトーだけがヘラヘラとしながらいつもの調子で不満を溢した。

「なーんだ、やっぱり近くの席で分けただけじゃないか。手抜きだなぁー。っていうか黄腕章の女も混じってるしー」

 マルクトーには犬ほどの学習能力も無いのだろうか? 

 皆可哀想なものでも見る目を向けていた。

 案の定ブチ切れた様子のブレジナが、冗談とは取れないような声色でこう言い放つ。

「迷宮の中でなら貴様が消えても事故で片付くなマルクトー」

「えっ」

「数年に一度は命を落とす者が必ず出る。そういった者はすべからく普段から物事に真剣に取り組まず、ふざけた調子であった。……貴様のようにだ。ますます何が起こっても不思議ではないな? 数年に一度が、今年はあるかもなぁ?」

「ヒェッ!?」

「では続ける。第五小隊……」

 すべての小隊分けが終わり、ブレジナが迷宮試験の内容についての具体的な説明を始めた。

「今回行う実地試験の最終目標は地下迷宮最深部に辿りつくことではなく、そこでのモンスター討伐だ。最深部には祭壇が設けてあり、そこに置いてある白い宝玉を破壊することで内部に封じられたモンスターが現れるので、各小隊一体ずつ、それを討伐して貰う」

 簡単に言うが、簡単では無いだろうことは容易に想像がつく。

「当然道中にも様々な罠や仕掛け、そしてモンスターがおり、諸君の行く手を阻むだろう。仲間同士協力して工夫を凝らし、知恵と、時に勇気をもって突破して欲しい。それとだが、破壊してよい宝玉は一小隊につき一つ。他の小隊の分まで余計に壊さないように。また祭壇には赤い宝玉も用意されているが、そちらは諸君の後に行う上級生のための訓練課題に使うものだ。もし誤ってそちらを破壊すれば諸君の命に関わる事態にもなりかねないので、くれぐれも手は出さないように……わかったら返事!」

「はい!」

 説明が終わったタイミングでちょうど授業が終わり、その直後の休憩時間。

 タリアがこんな提案をした。

「ねえ、必要な物の買い出しはどうせ行くんだし、それなら小隊になったみんなで一緒に街へお買い物に行かないっ!? せっかくだから遊びたいしっ!」

 リックスが同意する。

「おっ、さすがタリア! 俺は賛成だ!」

 迷宮試験は一日で終わらぬほど過酷であることから、その前後一日ずつは準備も含めた休息日となる決まりがあった。

「それにハルノとライナライアがギクシャクしてんのも問題あるし、親交を深めるためにもいい考えかもな!」

「わ、私は別にそんなギクシャクしているつもりは……」

 ライナライアは何かモゴモゴと言っていたが、リックス以外の者もそう認識していたようだ。

 タリアはベルにも確認を取る。

「ってことなんだけど、どうかなっ? ベルちゃんっ」

 ベルは無愛想に答えた。

「……必要なことだと言うなら」

「なら決まりだねっ!」

 こうして、俺が一言も発しないままで第三小隊は明日にも街へ繰り出すことが決まるのだった。

 聞き耳を立てていたルーベンスが嫌味を吐く。

「おのぼりさんはせいぜい都会の観光を楽しむがいいさ。貴様らにはこの試験が王都に居られる最後なんだからな。ふっ」

「……ほんと、嫌なヤツだな」

 リックスが辟易して言うと、タリアもルーベンスに向かって「べーっ!」と舌を出した。


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