第23話 ルーベンスとマルクトー
ルーベンス、マルクトーを始めとする多くの赤腕章の生徒……のみならず、黄腕章の生徒達からも笑い声が起こる。
俺の魔法不全は当然、授業開始直後すぐにバレ、このような状況になっていた。
「ハルノ君……」
心配そうに見守るタリア。
リックスもハルノの肩に手を置き、本心から心配した表情で訊ねる。
「ハルノ……平気か?」
だが、俺は。
「ん? ああ、心配は不要だ」
「お、そっか、本当に心配無さそうで安心したぜ!」
すでにその問題と真っ向から向き合い、剣を極めることを目指していた俺にとって、この程度の雑音などなんてことはなかった。
悪口も陰口も、なんでもない。
腐りもしない。
俺ほど熱心に、文字通り魔法を見て学んだ生徒はかつていなかったのだろうという自負がある。
それもそのはず。
魔法こそ使えないが、当然魔法を使う者を相手にせねばならなかったため、その対策を立てるために誰よりも魔法に関しての本を読んできたのだから。
更に現在は星剣を有したことで、全属性の魔法が使えることになったのだから。
星剣に相応しい剣士になるため、そしてこれからは秘かに憧れ続けた魔法も、対策を練るためだけでなく自身が極めていけるという喜びから、むしろ過去最高のやる気に満ちていた。
放課後には昨晩約束した通りタリアから、急いで職人にあつらえさせたのであろう星剣の鞘を渡される。
「あまり質素過ぎてもと思って少しだけ装飾はしてあるけど、このデザインなら悪目立ちしないよね?」
「ありがとうタリア。今日は不本意ながら部屋に置いてきたが、これからはちゃんと身に付けるよ」
「うんっ!」
この翌日から俺は星剣と愛剣の二本を左の腰に下げることになる……のだが、目敏くそれに気づいたマルクトーが嬉々として馬鹿にした。
「おい田舎伯! 魔法がダメだからってまさか剣を二本使うのかよ!? バッカだなお前! そんなんで強さ二倍になるとでも思ってるんですかぁ? 安直かよ! 馬鹿さが二倍じゃないか! ね! ルーベンス!」
「ふふっ、放っておいてやれよマルクトー。性格が悪いぞ? 人には腕が二本あるのだから、剣を二本扱えると思ったんだろう。猿よりは利口じゃないか」
「あっはっは! 比べる相手が猿って!? ハハハッ!」
これを近くで聞いていたタリアは「むーっ!」と、餌を詰め込み過ぎたげっ歯類のように頬を脹らませ、可愛らしく怒りを露にする。
「負け惜しみだ、言わせておけよ。魔法どうこう以前に、あいつらはどうあがいたってハルノには敵わないんだからな」
リックスがそう言うと、納得したのか「ぷー」と頬を膨らませていた空気を吐き、タリアは怒りを収めた。
「それもそうだねっ!」
ここで事態に気付いたパンジーがルーベンスとマルクトーに、ジトリとした目を向ける。
するとルーベンスは舌打ちをし、マルクトーを引き連れその場を後にした。
彼女は俺やタリア達へと、頭を下げて言う。
「……皆様、彼らが不快な思いをさせて申し訳ありません」
「レディ・パンジー、どうか頭をお上げ下さい」
「そうだよっ! パンジー様は悪くないよっ?」
そう俺達が言うと、パンジーは微笑んだ。
「お優しいのですね……。それとですが、レディも様付けもおやめ下さい。クラスメイト同士ではありませんか、ハルノ君、タリアさん」
「わかった、パンジー」
「うんっ、パンジーちゃんっ!」
「ふふっ、ありがとうございます」
「ハルノといい赤腕章にもいいヤツは居るんだな。特にあんたなんて、あのパルフプス公爵令嬢だってのに……。これからはパンちゃんって呼ばせて貰うぜ!」
親しみを込めてそう呼んだリックスだったが、パンジーから暗黒微笑を向けられ、突き放し気味に凄まれる。
「パンちゃんは是非ともおやめ下さい?」
リックスは気圧され「わ、悪い……」としか言えないのだった。
暗黒のオーラを解き、パンジーは呟く。
「あの二人も、昔はああではなかったんですけれど……」
「ルーベンス達の子供の頃の話?」とタリアが訊ねた。
パンジーが曖昧に頷く。
「ええ……。あまり勝手に他人のことを話すのも悪いので、この辺にしておきますね。さあ、次の授業の準備でもしましょうか」
彼女はそう濁し、会話を終わらせるのだった。
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