第三章 迷宮試験
第22話 不全野郎
「おはようございます」
「……ああ、おはよう」
目を覚ますと、アリネが朝から部屋の掃除を始めていた。
――家でも無いのにだ。
「昨晩は随分と遅くまで野外でお楽しみだったようでございますね」
「……なぜ男子寮に?」
「造作もありません。お着替え、こちらに置いてありますので」
「すまん……ではなくて! 今は生徒同士なのだからこういうことはしなくともよい!」
「もう私めがおしめを取り替えなくてもよろしいと?」
「それはそもそもしていないだろう嘘を吐くな!」
「そんな些末な問題はともかくとして――」
アリネは部屋の隅に立て掛けた布に巻かれた棒状の物へと目をやってから詰問する。
「……あれはなんでございますか?」
「……ああ。あれね……」
俺はアリネへと星剣セプテントリオンの持ち手となった経緯を正直に話した。
するとさすがの彼女も困惑する。
「……話が大き過ぎて、正直引いております」
「わかる」
「ですがお坊っちゃまにはふさわしいスケールであるようにも思えます」
「わかる」
「そしてタリア様も、やはり身分を偽っておいでになられたのですね。察しはついておりましたが」
「わかる」
「色々あってお疲れなのは理解しておりますが、会話が面倒だからとわかるだけで乗り切ろうとするのはおやめ下さいませ」
「わかる……バレたか」
「さあ、そろそろベッドから降りて支度をして下さいませ」
「わかった」
「……なぜ布団に潜るのですか」
◇
学園生活二日目。
この日から本当の通常授業が開始される。
座学では戦闘に関するもの以外にも高等学園水準の授業が行われ、実践授業では格闘技や、各種武器ごとの稽古をそれぞれの専門講師が教えるという贅沢な体制が取られていた。
そして魔法の授業も当然あり、こちらも属性ごとに専属の講師陣が用意されるという潤沢ぶりだ。
まず行われたのは、魔法の適性検査。
「それでは諸君にはまず自身に適正のある属性を知って貰うためにも、各属性ごとに感知すると輝く魔法水晶を六つ用意した。一つずつ触っていき、強く光るものがあればそれが得意属性だ」
ライナライアを含め、多くの生徒が火か水の水晶しかまともに光らせることができず、パンジーでさえ火と水の二つ。
そんな中なんとタリアは火、水、風という三つもの水晶を光らせた。
これには魔法を教える教師陣も驚く。
「三つとは凄いな」
「我々教える側も腕が鳴るというものだ」
「俺なんて土属性一つしか適性が無かったのに、すっげぇなぁ……」と、リックスも羨ましそうに呟いた。
皆が口々にタリアを話題にする中、さらに衝撃的な事態が起こる。
「水、木、風、雷……四つも適性属性があります!」
驚きに満ちた適性検査担当教師の声に、皆からも驚嘆の声が上がった。
「ええっ!? 四つって!? しかも雷属性も!?」
「すっご!?」
「誰だよ!? どいつだ!?」
「あの子だよ!」
「えっ誰?」
「誰!?」
「フォルサブ宮廷伯の……確かベルだったか」
白い猫毛の髪に、常に眠そうな大きな目。
あまり開かれることのない薄ピンクの小さな唇。
無口で自己主張もせず、その瞬間まで誰しもが存在を忘れていたクラスメイトの女子、ベル・フォルサブ。
今度は彼女がタリアに代わり渦中の人となる。
それを苦々しそうにルーベンスは眺めていた。
「僕は火だけだったけど、ルーベンスは火と水の二つで凄いね!」
そうマルクトーが胡麻を擦るも、機嫌は直らない。
「二つ程度がなんだ。倍の適性持ちがいるんだ、自慢にもならん」
「そ、そうかなぁ」
しかしこの直後、すべての話題をさらう者が現れる。
その人物とは――。
「あーっはっはっは! 田舎伯は魔法の一つも使えないのかっ! これはひどいっ! 惨めすぎて、笑えない――ぶっ! はっはっはっ! こ、子供にも劣ってるじゃあないか!? あーおっかし! ね! ルーベンス!?」
「マルクトー……。いくら友のお前と言えど、人の生まれ持った不治の病を笑うなど……プフッ」
「ほらルーベンスも笑ってるじゃーん!?」
「これはっ……田舎貧乏貴族な上に、魔法不全だなんて、あまりにも不憫すぎて……ブッフォッ!」
「アッハッハッハッハ!」
――この俺、ハルノだ。
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