第20話 資格

「……」

「男の子でしょっ!? ダメで元々だと思って、挑戦くらいするべきだよっ!」

「……」

「ほらっ! ほらっ! ほらっ!」

「……」

 中々決断しない俺に業を煮やしたのか、タリアが罵倒を始める。

「それでもハルノ君にはおっ、おっ………おちっ――おちんちんついてるのかぁっ!?」

「――はあっ!? わ、わかった、わかったから!?」

 熱された鉄のように耳まで真っ赤にした、小さなこの少女の押しに負け、ついに俺も覚悟を決めた。

「……やろう。俺も男子(だんじ)だからな」

「うんっ!」

「その前に確認だが、本当にいいのか? 出会ったばかりで俺のこともよく知らないだろう? そんな男にレガリアを渡すなど」

「いいのっ! それにハルノ君の人となりなら、出会った時すぐにわかったもんっ! 君の目指すノブレスオブリージュにも、きっと必要なものだよっ!」

「わかった。では……」

「うんっ!」

 俺がその場にひざまづくと、タリアが恭しく剣を右胸の辺りに掲げる。

 そしてそれを水平に倒し、刀身に手を添えた。

 俺が出した両手に、ゆっくりとタリアが星剣を置く。

 するとその瞬間。

 パァァァッ! 

 これまで闇を映しているだけだった刀身に、色とりどりの星の光が瞬いた。

「光った……」

 驚きと安堵と感動。

 それらが入り交じり、俺は目を皿のようにしたまま動けなくなってしまう。

 対してタリアはその場で跳び跳ねんばかりに、感嘆の声を上げつつ満面の笑みで喜ぶ。

「ほらっ! やっぱり光ったよっ! ハルノ君の魔力に反応してるんだよっ! すっごく綺麗っ!」

「俺の……魔力に……? そうか、俺の魔力に……」

「選ばれたってことだよっ!? 星剣にっ!」

「俺が星剣にか……? ――くぅっ!?」

 感情の昂りから俺の涙腺は弛み、油断すれば今にも目から零れ落ちそうだった。

 嬉々としてタリアは続ける。

「しかも六つ全ての属性の光がちゃんと揃って強く輝いてるよっ! ハルノ君は確かに魔法が使えないのかもしれないけど、星剣の力を最大限に引き出せるっていう、こんなにも凄い才能があったんだよっ!」

「俺に……こんな才能が……?」

「全属性を高い水準で扱える人なんて、私一人しか知らないっ! あの勇者クレイオンただ一人しかっ!」

「あの剣の勇者と同じだというのか!? 俺がか?」

「そうだよっ! これからはセプテントリオンがハルノ君の力を引き出してくれるよっ! ハルノ君とこの星剣は出会うべくして出会ったんだよっ!」

「その、なんだ……つまり、まさか俺にも使えるのか? 魔法が?」

「うんっ! セプテントリオンを媒介にすれば使えるはずだよっ! それどころか低コストの魔力で剣自体に属性付与を行うことや、属性の掛け合わせや深化だってできるんだからっ!」

「魔法と縁遠かった俺に……そうか……。タリア、すまないがこれから魔法を教えてくれないか?」

「うんっ! もちろんだよっ!」

 次の瞬間、唐突に俺の頭の中であの声が響いた。

――現実から目を背けるな。

「えっ」

 勇気を以て、お前の正義を示せ。

 そこに力は宿る――。

「この声、今手元から……? ――そうか! あの声の主はこの星剣だったのか!?」

 いや、星剣に宿った勇者の魂なのかもしれない。

 そう感じざるをえない。

 もしもそうならば、勇者クレイオンならば、俺に力をお貸し下さい。……いや、違うな。

 誓います。もしも魔王がのうのうと今も生きているのならば、俺があなたの無念を晴らし、必ずや仇を討つと――! 

 そう俺は星剣とクレイオンに誓う。

 そんな様子を、訳がわからずに見ていたタリアが訊いた。

「……えっと、急におっきな声を出したり黙ったり、どうしたのかな?」

「あ、ああ、昨日話しただろう? 悪夢とともに、声が聞こえると。どうやらその声の正体は、この星剣だったようだ」

 それを聞いたタリアは、なぜかどこか寂しそうな雰囲気で呟く。

「そっか、ハルノ君はセプテントリオンが呼び掛ける声を聞いていたんだね……」

「多分だが、そのようだ。そしてあの悪夢も意図して、同じく見せていたのかもしれない」

「私とララちゃんが悪夢を見たのは、星剣が近くにあったから……ってことなのかな?」

「全ては推測の域を出ないが、その可能性はあるだろう」

「そっか……。とにかく、これでようやく私は肩の荷が一つ降りたよ」

「俺はそれが増えたがな」

「だねっ? ふふっ!」

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