第18話 異常事態

「さっきも言ったけどこの星剣は待機中で、擬似的戦闘状態……つまり持ち手を探している選考状態のままなの。普通役目を終えた星剣の刀身は透明になるはず。なのにこの通り、魔王討伐後に返還された時からずっと、今も黒い闇が宿ってる……。それはきっと、そういうことなんだと思う……。これは今までに聞いたことすらない異常事態だよ……」

「確かにな」

 魔王は倒され、勇者達は元の生活に戻ったり旅に出たとされているが、本当のところを俺達は知りようがなかった。

 勇者クレイオン・フォークスは旅に。

 大魔法使いヨルトガ・フルーガーは商人に鞍替えし、どこかで商いを。

 獣闘士リオンハルト・コーネリアスはどこかの山にこもり、己を高めるための修行に。

 エルフのエリュシフィー・アリアルスは深い森の中にある故郷へ帰った。

 そう伝わってはいるが、どこまでが真実なのか――。

「勇者が負け、魔王が生きている……か。無いとは言い切れないか」

「うん……。それで私は考えたの。ヤハネ中から強者が集まるこの学園になら、そこに新たな勇者も居るのかもしれないって。全部私の思い過ごしならいいんだけど、そうじゃない可能性があるなら備えるべきだと父上も納得してくれた。そして余計な混乱を生まないためにも秘密裏にレガリアを持ち出し、勇者探しをしているの」

「だからライナライアとたった二人で」

「うん……。それとだけど、学園側にも事情を知って協力してくれている大人の人も居るんだよ?」

「どうやら随分と大事になってたようだな……」

「そうだね、表には出てないだけで……。それにあの、ハルノ君も見てる悪夢……」

「ああ……」

「考えたくないし、だとすると現状と矛盾だらけだけど、やっぱりあれは夢じゃなくて本当に起こったこと……なんじゃないかな?」

「星剣の状態といい、むしろ俺の中では可能性が高まったよ。魔王生存のな」

「でもねっ? 希望もあるのっ!」

「おお、そうなのか?」

「うんっ! 多分だけど私、星剣の持ち手を見つけちゃったのっ!」

「……もしやとは思うが」

「ハルノ君っ!」

 なんの溜めもなく、そう言い切るタリア。

 俺は再び頭を抱えながら言った。

「……期待を裏切って悪いが、残念ながら違うと思うぞ」

「どうして?」

「それは星剣とは呼ばれているが、真価を発揮するにあたり魔力を要する魔剣の一種……という認識で間違いないな?」

「えっ、そうだけど……?」

「ならばやはりダメだ」

「どうしてっ!?」

「魔法が使えないんだ」

「……えっ」

 この答えばかりは想定していなかったのか、タリアは真っ白になってしまう。

 俺は自身の、できれば隠しておきたかった秘密を真摯に彼女へと語った。

「俺は体内の魔力を出力できない、魔法不全なのだ……。その存在を聞いたことくらいはあるだろう? まあ、見るのは初めてだろうがな」

「そんな……ハルノ君が……?」

 魔法には火、土、雷、風、木、水という六つの属性がある。

 属性には得手不得手があり、三つ得意属性があれば最高クラスに分類されたが、それだけの才能を持つ者は全体のわずか一%に満たない。

 そして八割の得意属性が火。

 長い歴史の中で、人が生きるために最も必要な暖を取るにも料理にも不可欠な火が研究され、誕生したという経緯を持つ原初の魔法であることから、遺伝的に得意な者が多くなったためだ。

 次点で水。

 そして木、土と、やはり生活に必要な属性が続き、風、特に雷属性に至っては全く扱えない者がほとんどである。

 つまりどういうことかといえば、この魔法を中心に発展した文明においてそれを扱えないということは、人と同等の生活を送ることも難しい大きなハンデを持ってしまっているということ。

 そんな世界で残酷にも稀に生まれてしまう、魔法不全という原因不明な先天性の病。

 生命の源ともいえる魔力は持つものの、それを魔法として放出することができないという大きな欠陥。

 それを不幸にも俺は患っていた。

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