第17話 星鍵

「――なっ」

 柄の下に伸びていたのはどす黒い刀身。

 どう見てもまともな剣ではない。

「まさか……邪な力を蓄えた魔剣か?」

「違うよっ!?」

「違うのか?」

「むしろ逆だよっ!?」

「逆だったか……逆?」

「逆も逆の真逆っ! これは聖剣にして星剣、セプテントリオンだよっ!」

「セプテントリオンッ!? あのセプテントリオンだと――ッ!?」

 俺は大きく取り乱した。

 なぜならばその剣の名を知らない者など、この世界のどこにもいないほどのものだったからだ。

 真剣な表情と声色でタリアが告げる。

「星剣セプテントリオン……。これが魔王を討った、勇者の剣だよ」

「どうりで後生大事に抱えていたはずだ……」

 これまでのタリアの行動から、すぐにそう納得した。

 しかし、おかしな点もある。

「……だがちょっと待って欲しい。伝え聞いた話ではセプテントリオンの刀身は無色透明だと聞いている。だがそれはどう見ても黒く染まっているではないか」

 そう、その剣の刀身は反対側が透けるどころか、どう見ても青紫がかった漆黒に染まっていたのだ。

 だからこそその見た目から、先程俺は魔剣だと思い込んでしまった。

 タリアがこの問いに、淀みなく答える。

「普段は透明なんだけど、例外として持ち手を探している間、待機中は擬似的戦闘状態となって青黒く夜空の色に染まるの。いつでも持ち手に触られた時、その闇の中に星の光を宿せるように……」

「なるほど、別名として星霜(アズライト)の鍵(けん)と呼ばれているのもそこから来ている訳か。……未だにわかには信じ難い部分もあるが、要するにこれは本物の星剣なのだな?」

「うん、間違いないよ」

「そうか……」

 頭が痛くなってきたが、これを訊かない訳にはいかない。

「……ということはだ」

「んっ?」

「この星剣を有するタリアの正体は……」

「あっ、バレちゃったかなっ!?」

 俺は額を押さえ、嘆息してから――。

「そりゃあバレるだろう……。星剣はサラーガ共和国のレガリア。元々は王自らが振るっていたが、いつしか勇者と認めた者に貸与するようになった。そして今のサラーガ王に娘は一人しかいない。タリア・フローライトは偽名で、フロレタリア・リフィネシアス……それが本当の名だな?」

「当たりっ!」

「……外れて欲しかったものだ。まさか一国の姫が護衛もつけずにこんなところにたった一人で居るなど、いくら平和な世といえども考えるだけでも恐ろしい……」

「えへへ……なんかごめん……」

 俺は態度を一変させ、最敬礼をしてから言った。

「これまでの非礼の数々、今この場をもってお詫び申し上げますフロレタリア殿下。そうとは知らずといえども、申し訳のしようもございません」

「やっ、やめてよ急にっ!? そういうのいいからっ!? これまで通りにしてっ!?」

「わかったタリア、その意思を尊重しよう」

「驚きの物分かりのよさっ!?」

 態度を戻し、俺は訊ねる。

「ということは、ライナライアは護衛といったところか?」

「うんっ! 近衛家筆頭べラミー家の出身ですっごく強いんだよっ! 歳も一緒だから今回一緒に入学してくれたのっ!」

「……彼女も苦労していそうだな」

「あー……うん、大体私のせいで苦労掛けちゃってるかなぁ……えへへ」

 そう言ってばつが悪そうに笑うタリアは、歳相応の少女に見えた。

 しかし――。

 俺は肝心な部分について訊ねる。

「それで、なぜ役目を終えたはずの星剣を持ち歩いている? 自国のレガリアだぞ? 危なっかしいにも程があるだろう」

 タリアの表情に、陰が落ちた。

「本当に……役目を終えたのかな?」

「と言うと?」

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