第16話 密会

 実戦的な授業も終わり、教室へと戻る廊下でのこと。

 俺とアリネは二人きりで、言葉も交わさずに歩いていた。

 人気が無くなったところで、アリネの方が口を開く。

「……本気の力を見せ、有象無象を黙らせるべきだったのでは?」

「なるほどな、そういう狙いがあったということか。だが余計なお世話だ。緊急時でもなければ、人前でお前から習った剣を使うつもりはない」

「そうでございますか……」

 その時、向かう先の角からライナライアとタリアが現れた。

「……おいハルノ。貴様本気ではなかったのか?」

「ご、ごめん、聞く気は無かったんだけど、ララちゃんが葉っぱのポジショニングにこだわってたら、聞こえてきちゃって……」

 俺は答える。

「……本気だったさ」

「だが今のアリネの口振りは……」と、ライナライアが食い下がった。

 しかし、答えは変わらない。

「間違いなく本気だった。さっきも見た通り、アリネは確かに俺よりも強いのだ。疑う余地はない」

 ライナライアもついに納得する。

「……そうか」

 その後教室に戻ると、アリネのせいで俺のあだ名がお坊っちゃまになっていた。

 そしてアリネは皆から質問責めに合い、ターミア家のメイドであることを白状。

 メイドちゃんと呼ばれ、一躍クラスの人気者となる。

 ルーベンスとマルクトーはといえば放課後が億劫なのか、この後の授業を脱け殻のようになって受けていた。

 ブレジナによる特別授業で何があったのかを、幸運なことに俺達は知るよしもない。



 食堂で夕食を済ませ、寮棟にある自室のベッドの上にて。

 俺が新しい環境に眠れず、今日起こったことを思い返していると、窓へコツリと小石がぶつけられた。

 なんだ? 

 コツリと、再び小石が。

 ベッドから起き上がって窓を開け外を確認すると、黒いローブに身を包み、目深にフードを被った何者かがこちらを見上げているではないか。

 背丈は子供くらいしか無さそうだ。

……何者だ? 

 この部屋は三階であったが、構わず俺はそのまま窓から飛び降りる。

 そして一度二階のヘリを蹴って勢いを殺し、ほとんど音もなく静かに地面へと着地した。

 この場から離れようとする黒いローブの不審者に声をかける。

「止まれ、何者だ。そこで何をしている。俺に用があったのではないのか?」

 不審者の腕には、布に巻かれた棒状の物が抱えられていた。

 フードの下から、知っている声で名を呼ばれる。

「あの……ハルノ君」

「やはりタリアか。ここは男子寮の敷地内だぞ?」

「どうしてもハルノ君に会っておきたくて……」

「こんな時間にどうしたというのだ? 明日ではダメだったのか?」

「うん、ララちゃんに気付かれたくなかったから……」

「なるほど、その抱えた物と関係があるようだな……」

「察しがよくて助かるよ。少し移動してもいいかな?」

「ああ」

 二人は夜の静かな学園内を会話もなく歩き、人気のない中庭にまで移動した。

「この辺りでいいかな……」

 そう言って立ち止まった、どこか思い詰めて見えるタリアに向かい訊ねる。

「それで、その布の中身はなんなのだ?」

「私が何か言うよりも、まずは見て貰った方が早いかな……」

 彼女はそう言うなりスルスルと、棒状の物に巻き付けられた布をほどき始めた。

 まずは柄が露になる。

 やはりその形状から想像していた通り、それは剣で間違いないようだ。

 しかし、ここからが予想外だった。

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