第16話 密会
実戦的な授業も終わり、教室へと戻る廊下でのこと。
俺とアリネは二人きりで、言葉も交わさずに歩いていた。
人気が無くなったところで、アリネの方が口を開く。
「……本気の力を見せ、有象無象を黙らせるべきだったのでは?」
「なるほどな、そういう狙いがあったということか。だが余計なお世話だ。緊急時でもなければ、人前でお前から習った剣を使うつもりはない」
「そうでございますか……」
その時、向かう先の角からライナライアとタリアが現れた。
「……おいハルノ。貴様本気ではなかったのか?」
「ご、ごめん、聞く気は無かったんだけど、ララちゃんが葉っぱのポジショニングにこだわってたら、聞こえてきちゃって……」
俺は答える。
「……本気だったさ」
「だが今のアリネの口振りは……」と、ライナライアが食い下がった。
しかし、答えは変わらない。
「間違いなく本気だった。さっきも見た通り、アリネは確かに俺よりも強いのだ。疑う余地はない」
ライナライアもついに納得する。
「……そうか」
その後教室に戻ると、アリネのせいで俺のあだ名がお坊っちゃまになっていた。
そしてアリネは皆から質問責めに合い、ターミア家のメイドであることを白状。
メイドちゃんと呼ばれ、一躍クラスの人気者となる。
ルーベンスとマルクトーはといえば放課後が億劫なのか、この後の授業を脱け殻のようになって受けていた。
ブレジナによる特別授業で何があったのかを、幸運なことに俺達は知るよしもない。
◇
食堂で夕食を済ませ、寮棟にある自室のベッドの上にて。
俺が新しい環境に眠れず、今日起こったことを思い返していると、窓へコツリと小石がぶつけられた。
なんだ?
コツリと、再び小石が。
ベッドから起き上がって窓を開け外を確認すると、黒いローブに身を包み、目深にフードを被った何者かがこちらを見上げているではないか。
背丈は子供くらいしか無さそうだ。
……何者だ?
この部屋は三階であったが、構わず俺はそのまま窓から飛び降りる。
そして一度二階のヘリを蹴って勢いを殺し、ほとんど音もなく静かに地面へと着地した。
この場から離れようとする黒いローブの不審者に声をかける。
「止まれ、何者だ。そこで何をしている。俺に用があったのではないのか?」
不審者の腕には、布に巻かれた棒状の物が抱えられていた。
フードの下から、知っている声で名を呼ばれる。
「あの……ハルノ君」
「やはりタリアか。ここは男子寮の敷地内だぞ?」
「どうしてもハルノ君に会っておきたくて……」
「こんな時間にどうしたというのだ? 明日ではダメだったのか?」
「うん、ララちゃんに気付かれたくなかったから……」
「なるほど、その抱えた物と関係があるようだな……」
「察しがよくて助かるよ。少し移動してもいいかな?」
「ああ」
二人は夜の静かな学園内を会話もなく歩き、人気のない中庭にまで移動した。
「この辺りでいいかな……」
そう言って立ち止まった、どこか思い詰めて見えるタリアに向かい訊ねる。
「それで、その布の中身はなんなのだ?」
「私が何か言うよりも、まずは見て貰った方が早いかな……」
彼女はそう言うなりスルスルと、棒状の物に巻き付けられた布をほどき始めた。
まずは柄が露になる。
やはりその形状から想像していた通り、それは剣で間違いないようだ。
しかし、ここからが予想外だった。
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