第13話 安心してください、穿いてませんよ!パーンツ!
昼食を終え、アリネと校庭へ移動する際のこと。
ふと人の気配を感じて窓から中庭を眺めると、そこにライナライアとタリアと、あともう一人ガタイのいい男子生徒の姿があった。
彼の腕の黄腕章には一本横線が走っている。
この学園では一つ学年が上がる度に、腕章に黒い横線が入ることから、二年生だということがわかった。
あの二人……いや、ライナライアのヤツ、厄介なのに絡まれているな。
何かあった時にいつでも飛び出せる位置に移動していると、話し声が聞こえてくる。
二年の男は下卑た顔と声で、ライナライアに言い寄っていた。
「お前一年にしちゃあいい女だなぁ? おぱんちゅはむはむさせてくれよぉ?」
ライナライアは何も言い返さず、黙ったままだ。
「……」
彼女がぶちギレ、あの上級生をボコボコにする展開が見えた俺は、このまま立ち去ろうかと考える。
しかし、その予想は外れた。
――なっ!? なぜ何も言い返さず、言いなりに!? 何か事情があるのか!?
なんとライナライアは上級生の言うがまま、おもむろに制服のスカートの下からパンツを脱ぎ出したのだ。
「おっほぉぉぉっ!? 物分かりのいい一年だぁぁぁっ!」
歓喜の声を上げる上級生。
ついにパンツを脱ぎ、それを手に持ったライナライア。
「さあ美人のお嬢ちゃん、それを俺におくれぇ?」
タリアのことならば、彼女も戦っただろう。
だが今回は自身のこと。
察するに、上級生に逆らうことで、タリアまで目をつけられることを嫌っての行動。
ならば、やはりここは俺の出番か……。
状況を把握した俺がそう覚悟を決めた時だった。
――ボゴォッ!
「オゴッ!?」
ライナライアのパンツ……が巻き付いた拳が、上級生の咥内に突っ込まれた。
当然口の中は切れ、歯もバキバキに。
「なっ!?」
何が起こった!?
動揺する俺とは対照的に、恐ろしい程に冷静なライナライアが上級生へと告げる。
「お望み通りのおぱんちゅだ。それとはむはむに歯はいらないだろう? 余計な世話かも知れんが折っておいたぞ」
「オボボッ、アガガ……」
上級生は口から出血させながらも、恍惚の表情を浮かべていた。
「ふむ、これが本当のパンツィ――と」
「ハルノ様、今空気が凍る程に低レベルな言葉をお吐きになりませんでしたか?」
「気のせいだ」
そんなやり取りをアリネとしていると、ライナライアがその気配に気づく。
「ああハルノ……とアリネだったか? 見ていたのだな」
「すまん、偶然見かけてな……」
「それは構わないが、私の方こそすまないな。お前の守るべき民の一人を殴ってしまった」
「構わん。ああいう輩は守るべき民の内には入らない」
ここで今まで黙っていたタリアが、言いにくそうに声をかけた。
「あ、あのー、ララちゃん?」
「はい、なんですか?」
「これから実戦的な授業みたいだけど……パンツ無くて平気?」
「はっ!?」
馬鹿なのかこいつは。
ライナライアがキョロキョロと辺りを見回しながら呟く。
「……大きめの葉をつけた木がありますね」
馬鹿なのかこいつは。
俺とタリアはよく似た生温かい目でライナライアを見ていた。
「それはともかくとして」と、ここでアリネが会話に割り込む。
「ライナライアさんはとんでもないモンスターに餌を与えてしまったのではございませんか?」
その言葉に上級生を見れば――。
「いい女だなぁ……あむあむ……むちゅっ、はむちゅっ……あんむ……」
彼は依然恍惚の表情を浮かべたまま、血と唾液を含んだライナライアのパンツをくちゃくちゃと音を立て、未だはむはむしているではないか。
「うっ!?」
あまりにもおぞましい光景を目にし、皆言葉を失ってしまう。
アリネはといえば、この事態を面白がっていた。
「……ライナライア様の虜でございますね。あのパンツ、強力なフェロモンでも染み込ませていたのですか?」
「そんな訳あるかっ!?」
「私知ーらないっ!」
「そんなっ、タリア様ぁっ!?」
「……」
「おい、ハルノ!? なんとか言え! 黙ったまま立ち去ろうとするなぁっ!?」
さすがはあの名高いイド王立魔法騎士学園。
一筋縄ではいかない魑魅魍魎の棲み家のようだ。
気を引き締めていこうと、俺は思ったのだった。
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