第12話 夢を語る
そう簡単に魔王との戦いを語った上で、ブレジナが問いかける。
「そうして平和となった世で、諸君はなお剣と魔法を学ぼうとしている訳だが。……その力をどう扱うつもりなのか、それをこれから一人一人に問いたい。そういった目的、目標を明確にすることで、より着実にそこへ向かって成長していくことができるからな。これは別に思想を咎めるための場ではない。まずは各々、忌憚なき想いを述べよ」
「打倒魔王の下、一度は各国家もまとまりを見せましたが、残念ながらそれが永遠に続くとは思えません。私は祖国であるシーナ公国のためにも、有事に備えた力を身に付けたいです」
広い視野で未来を憂う者。
「僕は領地のメドーを守れる程度になれればいいかなぁ」
規模が小さくも、堅実なことを語る者。
「このイドにルカーム伯ありと、我がシュヴァイツァー家をより大きくし、その名をしらしめるためにも騎士となり高みを目指す所存です」
自身の野望を語る者。
「全てはダーヴァ神のために」
信心深い者。
「私の祖国のサラーガでは未だ魔物による農作物や人的被害も多いので、対処できるようになりたいと考えています」
優しき者。
「大切なものを守るためであります!」
単純明快な者。
「前の人と同じ理由でーす」
意思薄弱な者。
「……学ぶこと、そのものが目的……」
無口な者。
様々な想いが語られる中、ついに俺に順番が回ってきた。
おもむろに立ち上がり、真っ直ぐブレジナを見詰め、胸を張って語る。
「勇者が勝ち取った泰平の世をこのまま恒久的に維持し、国家間の紛争の無い、よりよい未来を切り開き、俺は自身の目指すノブレスオブリージュを体現してみせる! そのために必要な力を身に付けたいのです!」
次の瞬間。
「あっはっはっは!」
教室は壁が揺れるほどの大爆笑の渦に包まれる。
しかしそんな中で、拍手を贈る者達も少なからず居た。
ライナライアは自分のことのように恥ずかしがりながら呟く。
「一切臆すこともなんの恥ずかしげもなく、なんという大言を吐くのだ馬鹿者……。だが、なぜだか……」
その先が気になるのか、タリアが訊ねる。
「なぜだか……何かな? ララちゃん?」
「なんでもありません」
「ふぅーん?」
馬鹿にした様子もなく、リックスも言った。
「いいぞハルノ!」
「空気を読むこともせず、こうなることも省みず、さすがでございますハルノ様」と、一応褒めている様子のアリネも続く。
その後全てを聞き終えると、ブレジナは満足そうに言った。
「今年は例年に無く面白いものを聞かせて貰った。今言ったこと、ゆめゆめ忘れるな。……返事!」
「はい!」と、皆揃って返す。
その直後開始された最初の授業では初日ということもあってか、簡単な近現代史についてを中心に語られた。
それらが一段落つき昼休憩に入る際、ブレジナが告げる。
「午前は座学ばかりで退屈だったろう。昼休憩後の授業では校庭にて諸君の実力を見せて貰おう」
「ふっ、さすがは魔法騎士学園。初日の午後から早速実戦形式の授業か」
「腕の見せどころだね! ルーベンス!」
「まあな」
「各自時間に遅れぬように。それと授業の最中にションベンを漏らされては堪らん、休憩の間にでもトイレに行っておくのだぞ。以上だ」
皆が「はい」と返事をする中、タリアだけが恥ずかしそうにしていた。
それに気づいたライナライアがフォローのつもりなのか、こんなことを言い出す。
「今のはタリア様のことを言ったのではありませんので、気にする必要はありません。そもそもお漏らしの件を知っているのは私とタリア様本人を含め三人しか居ませんから」
お前の口が絶賛お漏らし中だぞと言ってやりたかったが、今にも溢れそうな涙を歯を食いしばって耐えるタリアにも余計なダメージを与えることになるので、黙っておくのだった。
◇
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