第二章 星霜(アズライト)の鍵(けん)

第11話 女教師

 青く爽やかなショートカットに涼やかな目元ながら、携えているのは厳しい顔つき。

 その教師が入った途端、賑やかな教室内を沈黙が支配した。

「本日より諸君の指導を担当するブレジナ・ノールカーンだ。これから一年間よろしく頼む」

 厳しい表情ながらも美しい女教師。

 その立ち居振舞いから俺を始め、多くの生徒が感じたことだろう。

 強者であると。

 ただ、一人を除いて――。

「なーんだ教師が女かよぉ。ちゃんと物を教えられるんですかねぇ? とくに戦闘訓練が不安だなぁ。他のクラスと代われないんですかぁ? ね? ルーベンス」

 マルクトーだった。

 隠しきれないほどのオーラを出している相手の力量すらわからないのか、能天気な顔をしている。

 あいつ、余計なことを……。この学園での教師はイコール軍人だということすら理解できほど馬鹿なのか? 迂闊が過ぎる。

 つまり、そんな存在に逆らうということは――。

 そう危惧した通り、案の定発言を聞いたブレジナはツカツカと、無表情のまま真っ直ぐにマルクトーの席へ向かった。

 そして目線を彼の高さにまで下げると、世にも恐ろしい形相と氷のように冷たい声でこう告げる。

「体罰が許容されていた頃ならば貴様はすでに肉塊と化し、廊下に転がっていたぞ? 生まれが数年ばかり遅くて助かったな子豚ちゃん……。こちらは残念で残念で残念で堪らないが……!」

「ひっ、ひぃっ!?」

 死線を何度も潜り抜けてきただろうブレジナから本気で凄まれ、マルクトーは恐怖に顔を歪めた。

 この間ルーベンスは一貫して他人の振りを通している。

 水を打ったように静まり帰った中、ブレジナが教壇へと戻った。

「……諸君も知ってはいると思うが、改めて話をさせて貰う。いかにこの平和がなされたのかを……」

 そして、語り始める。


 魔法が理として存在する世界を、永らく住み分けてきた人と魔族という二大種族。

 しかしそれは決して恒久的平和と呼べる代物などではなく、小康状態でしかなかったことを人々は思い知ることになる。

 ある時を境に人の生きる地すらその手中に収めようと、ついに万魔の王ノイロパが動き出したのだ。

 当然これを人の側も黙って見過ごすことはしなかった。

 度々衝突も起こっていた国家間のいざこざをすら超越し、徒党を組んだ悪に対抗するため人々は一丸となる。

 そんな各国家から推挙された選りすぐりの兵(つわもの)達。

 ある者は剣に。

 ある者は知略に長け。

 ある者は強靭な肉体と常人離れした特別な技(スキル)を持ち。

 ある者は弓と強力な魔法を自在に操った。

 国も人種も違えど皆等しく勇気と正義を胸に抱き、平和への想いを一つに宿した彼らを人々は希望への祈りも込めてこう呼んだ。

 勇者――と。

 こうして、これまで神話でしか語られなかった人と魔族の全面戦争の火蓋が切って落とされる。

 人材以外にもレガリアである武器や防具を貸与する国や、金銭的支援、食料等の必要な物資の供給を惜しまない国もあり、一年にも及ぶ激しい争いの末、勇者達は見事魔王を討伐。

 人類は勝利を収めたのだった。

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