第6話 共通する悪夢の差異

 思わず絶句してしまう。

「……」

「あの、ハルノ君?」

「なんということだ……。まさか……そんな……いや……」

「ご、ごめんねっ!? 気分を害したよねっ? 勇者様のことを悪く言っちゃって……」

「いいや、違うんだ」

「えっ、じゃあどうしてそんな反応を?」

「……実は俺も見るんだ」

「えっ」

「まったく同じ夢を……。それも今朝もだ」

「そんなっ!?」

 今度はタリアが驚き、ライナライアも狼狽しながら言った。

「おい貴様! それが嘘なら承知しないぞ!?」

「嘘ではない。まさか自分以外にも、あの悪夢を見ている者が居たとは……」

 それは勇者達が魔王ノイロパに敗北する夢。

 無音の中、こちらからは何の干渉もできない映像の中、魔王が何か言葉を発した後、突然動きを止めた勇者達を一人ずつ確実に仕止めていく。

 そんな勝負とも呼べない無惨な内容だった。

 魔王が勇者に討たれたこの世界においてはあり得ない、ただの悪夢である。

 しかしタリアの話を聞くに、たかが夢とも言えない状況になってしまった。

「音が聞こえない点。映像を見せられるばかりでこちらは体を動かせない点。そういったところまで同じだ……」

「なんだか、恐くて不安でたまらないの……。ハルノ君まであの夢を……」

 本当に恐しいのだろう。

 タリアがギュッと、持っていた布に巻かれた棒状の何かを強く抱き締める。

 ここでふとハルノはこの悪夢に関してまだ触れられていない部分を思い出し、それについてを訊ねる。

「……ということは、やはり二人にも夢の導入時にあの声が聞こえているんだよな? 現実から目を背けるな。勇気を以て、お前の正義を示せ。そこに力は宿るという声が」

 それを聞いた二人はなぜかきょとんとしていた。

 言いにくそうに、タリアが話し出す。

「……ええっとね、私達はそんな風に話し掛けられたことはないよ? 悪夢はずっと無音のままで、ただ勇者パーティがやられていく映像を見せられるだけ……」

「いや、その映像が始まる前の暗闇の中でさっきの声が聞こえるんだ。本当に聞こえないのか?」

「ええと……ごめん、聞こえない……」

「あ、ああ、そうか。私だけなのか……。でもなぜ、私だけが……?」

 ふと気付けば、タリアがこちらに真剣な眼差しを向けていた。

 その時だ。車輪が石でも跳ねたのか突如として荷馬車が浮き上がる。

 ガタンッ! 

「キャッ!?」

 バランスを崩し、タリアが大事そうに抱えていた布に巻かれた棒状の何かごと倒れかけた。

「おっと」

 すぐに俺は腕を伸ばし、タリアの肩を抱える。

 直後、前からライナライアが謝罪する声が届いた。

「失礼しました!」

「平気っ! 大丈夫だよララちゃんっ! それにハルノ君、ありがとっ!」

「当然のことをしたまで……ん?」

 その時、俺の腕がタリアの抱える布に巻かれた棒状の物に意図せず触れてしまう。

「――ッ!?」

 一瞬の脱力感。

 同時に布の中がほのかに発光した。

「えっ」と、タリアも驚いていたが、俺はまず謝罪する。

「すまない、タリアが大事そうにしている物に、事故とはいえ触れてしまった」

「あ、ううんっ!? 全然いいよっ!?」

「ところでだが、今布の中で何か光らなかったか? ぼんやりとだっ――」

 その瞬間、物凄い形相でライナライアが荷台の方を振り返り怒鳴った。

「そんなわけがあるか!」

 なぜそんなにムキになって否定するのか。

 俺は戸惑ってしまう。

「……そうか、ならば見間違いだったかもしれない。日差しの関係でそう見えただけだったのだろう」

「きっとそうだ。人騒がせな……」

 一方この時、タリアはぽかんとした表情を浮かべながら、抱えた棒状の何かと俺の顔をゆっくり交互に見比べていた。

「どうした?」

 そう訊ねると「あの……」と何かを言い掛けたが、再び「タリア様!」と、ライナライアが発言を遮る。

 ここまでくると、もう俺もそれがなんなのか気になってしまっていた。

 ライナライアを無視し、なおもタリアに訊ねる。

「先程から気にはなっていたのだが、その布の中身はなんなんだ?」

「あの、これは……」

 タリアが言い淀んだところへ被せ、ライナライアが言った。

「おいハルノ。我々を助けたからと、何を言い、何を訊いてもいいと勘違いするなよ」

「……ライナライアの言う通りだな。失礼した」

「わかればいい。私も貴様には感謝しているのだ。……そういうことですタリア様。答える必要はありません。それと、無闇に余計なことを話されませんよう」

「う、うん……」

 すっかり気まずくなってしまったが、この後タリアの明るさにより雰囲気は改善。

 その後は何事もなく、一行は無事に王都エナスカに到着するのだった。

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