第5話 チッ
なんだかんだとありながらも、この後三人は荷馬車で王都エナスカへ向け出発する。
その道中、共に荷台に乗っていた方の少女が思い出したように言った。
「あっ! 自己紹介がまだだったっ!? ハルノ君にばっかり名乗らせてごめんね? 私はタリア・フローライトだよっ! 改めてよろしくねっ!」
「ああ、よろしくタリア」
まあ、ずっとタリアと呼ばれていたから問題なかったが。
そう思ったが、黙っておく。
「それで、この荷馬車を運転してくれてるのがララちゃんだよっ! ほらっ、ララちゃんもっ!」
「チッ」
舌打ちをしてから、馭者の少女も自己紹介した。
「……ライナライア・べラミーだ」
「ライナライア、よろしく頼む」
「チッ」と、ライナライアは舌打ちで返事をする。
もしかしたらサラーガでは舌打ちで挨拶をするのかもしれないなと、俺が理解を示そうとするとタリアが怒りながら言う。
「ララちゃん舌打ちは失礼だよっ! めっ!」
「……失礼しました」
やはり舌打ちは舌打ちだった。
ライナライアが言い訳をする。
「ですがタリア様。ライナライアと仰々しい響きの名で呼ばれるのはあまり好きでは無いので……」
「あー、そうだったね。ねえハルノ君、悪いんだけど彼女のことはララちゃんって呼んであげてっ?」
「理解した。ララちゃん」
「気安く愛称で呼ぶなっ! ララちゃんはタリア様専用だっ!」
世の中には理不尽が満ちていることを俺は学んだ。
「……」
すかさずタリアがフォローする。
「あの……ララちゃんがごめんね? ハルノ君」
「いや、そういう事情があるのならば仕方あるまい。だが困ったな。お前のことはなんと呼べばよいのだ? このままでは不便だ」
「知らん。自分で考えろ」
「ふむ、では平民――」
しかしこれは不服だったようで、ライナライアは即座に言い返した。
「ライナライアと呼べ!」
……一体なんの時間だったのだろうか。
そう思わずにいられないが、タリアはこのやり取りを見てクスクスと笑っているのだった。
そんな和気あいあいと殺伐が同居する中、タリアが思い出したようにライナライアへと話しかける。
「あ、ねえララちゃん。さっきのハルノ君の剣技なんだけど――」
「似てなどいません!」
そのライナライアの声を張った返答に、タリアがビクリと肩を跳ね上げる。
「まだほとんど何も言ってないのに……」
「も、申し訳ありません。ですが、どうしてもその先を聞きたくなかったので」
「……そう」
この二人のやり取りの意図することがわからず、俺は困惑した。
一体、私の剣がなんだと言うのだ? 誰かに似ているということか?
そう考えてはみたものの、結局答えはわからずじまいとなる。
それからしばらく経った頃、荷台の揺れと暖かなこの時期の日差しに眠気を誘われたのか、タリアがうとうとしだした。
それに気付いたライナライアが声を掛ける。
「タリア様、まだまだ王都までは掛かります。私のことはお気になさらずお眠りになって下さい。そこの野獣が襲わないよう見張っておきますので」
誰が野獣かと思ったが、言えば倍になって返ってきそうなので言葉を飲み込んだ。
「でも」と前置いてからタリアが言葉を返す。
「寝ると、またあの悪夢を見そうで……」
「……ああ、そうでしたね」
「悪夢?」
気になった俺がそうオウム返しすると、タリアが説明を始めた。
「実は最近ね? 私とララちゃん、偶然にも同じ悪夢を見るようになっちゃったの……」
「二人ともがか? それは珍しい。どういった内容なのか、訊いてもいいか?」
「うん、いいけど。ちょっと不謹慎な内容なんだ……。怒らない?」
「ふっ、夢に怒るものか」
「じゃあ、話すね……」
それからタリアが話し出した悪夢の内容は、驚くべきものだった。
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