第3話 平民、すぐキレる
最近人が蒸発する事件……とくに子供が居なくなることが多いが、ああいう輩が関係しているのかもしれないな。見逃すべきではなかったか……。
そう思ったが気を取り直し、被害に遭った少女達に声を掛ける。
「災難だったな、庶民共よ。怪我は無いか?」
馭者の少女が剣を収めながら頭を下げた。
「賊を撃退してくれたこと、礼を言う。……だが」
「ん?」
「あの程度、私でも倒せた」
「……そうか、余計なことをしてすまなかったな庶民よ。ところでなんだが……」
「……?」
「そちらの荷台の少女が失禁しているぞ。現在進行形で」
「なっ!?」
荷台の少女は顔を真っ赤にし、目を潤ませながら申し訳なさそうに言う。
「……ごめんララちゃん。恐かったの……」
「大洪水だな」
つい俺が口を滑らせると、馭者の少女が怒りを露に叫んだ。
「貴様がタリア様を驚かせるからだぞ!? こうなってはもう止められないし、タリア様は全部出し切るからな愚か者!」
荷台の少女が恥ずかしそうに怒鳴る。
「愚か者はララちゃんでしょっ!? なんで偉そうに変なこと言ってるのバカぁっ!?」
「へ、変ではありませんよっ!? むしろさすがでございますタリア様! 川岸に文明が栄えるレベルの大胆な失禁! お見事としか言いようがありません!」
「もう黙っててっ!?」
このカオスな状況にどうしたものかと、下手に動けない俺に再び馭者の少女の怒りの矛先が向いた。
「それとお前!」
「ん? 俺がどうかしたか?」
「先程から庶民庶民と……何様のつもりだ!?」
「ただの貴族だが」
「そんなことはさっきの会話を聞いていればわかる! その態度はどうなのかと私は言っているのだが、そんなこともわからないのか!? 貴族だとしてもだ!」
「ふむ、気を害したのなら謝ざ――」
その言葉を遮るように、これまで黙っていた荷台の少女が怒鳴った。
「ララちゃん!」
「はっ!」
「せっかく助けてくれた人に対して、さっきから失礼だよっ!」
「申し訳ありません」
「謝るのは私にじゃないよ!」
馭者の少女が態度を一変させる。
「……これまでの非礼を詫びよう。それと改めて助けて貰ったこと、感謝する。ありがとう」
もう一人の少女も荷台からふわりと降り、美しい所作で礼を述べた。
「この度は危ないところを助けていただき、本当にありがとうございましたっ!」
薄い水色の柔らかそうなミドルヘアー。
大きな丸い目に、げっ歯類のようなかわいらしい面立ち。
よくよく見れば俺の好みのど真ん中のタイプだ。
それに気づいた途端、若干取り乱してしまったが、なんとか返事をする。
「れ、礼には及ばない。俺はただ世を乱す賊を退治し、守るべき民を守っただけのこと」
「ほら、凄くいい人だよララちゃんっ」
「ですが、どうにも気に食わないのです……」
そんな二人のやり取りを見ていた俺は思う。
まるで主従関係だなと。
一体この二人はどういう人間なのだ?
その疑問を訊ねた。
「ところでだが、こんな危険も伴う道を平民の少女二人、荷馬車でどこへ向かうつもりだったのだ?」
「私達、これから王都エナスカにあるイド王立魔法騎士学園に入学するために、遙々サラーガから来たんだっ!」
なるほど、本当に助太刀はいらなかったのかもしれない。
無粋な真似をしたなと後悔する。
「わざわざサラーガから……か。それに学園の試験に合格したとなると、二人とも平民にしては優秀ではないか」
「だから先程から庶民だ平民だと!?」
再び怒りだした馭者の少女。
先程の主従関係にも見えるやり取りといい、つまりこの少女達は平民では無いということなのかもしれないと、俺も思い始めた。
「違うのか? つまり二人は貴ぞ――」
「平民だよっ!?」
俺が言い終わるより先に、もう一人の少女がそう急いで訂正する。
「……そうか、ならば平民と呼ぶことに問題は無いな」
「うんうんっ! 全然問題ないよっ!?」
正直とても白々しいが、自らそう言うのであればこれ以上の追求は止めておこうと、俺なりに配慮した。
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