第7章4話 舞台裏①──少女と友人
「代役なんかムリムリ、ムリムリ……!」
「いい加減、観念なさい──メル。もう決まったの」
「だって、足枷どうするの!」
「
「そういう問題じゃなくてぇ……!」
舞台関係者用の大きな楽屋の隅っこで、メルはフレデリカに泣きついた。
周りでは衣装係の者たちが執念ともいうべき周到さでメルに衣装を着付け、採寸し、その場でチクチク
同時に、背後からも髪をなでつけられ、付け毛で結い上げられて、全然身動きがとれない。
自由になるのは目と鼻と口だけで……それも眼前のフレデリカに問答無用でぬぐわれた。
「ほら、泣くのやめなさい。メイクするんだから。ここから先は、演技以外で泣くの禁止」
「鬼ですか!?」
べしょべしょの泣き顔をフレデリカにぬぐわれる。その頬にファンデーションを塗りたくられ、
全身、着せ替え人形なメルはされるがままだ。
「……悪いとは思ってるわよ。でも、私たちはね、この公演一個のためにすべてを懸けてるの。あなたはそれを救える。私たちの希望になれる」
「……希望……」
メルが、フレデリカやみんなのために役に立てること。でも……。
「私は……アスターを捜しに、いきたくて……」
……困っているひとたちを置いて?
それでアスターに顔向けできるのだろうか。
メルが困っていたら、アスターはいつでも手を差し伸べてくれた。メルがシャルライン役として舞台に上がれば、みんなが助かる。
でも……──
「私……は……っ」
メルの迷いを見透かして……フレデリカはうなずいた。
「……わかってるわよ。それは私たちの理由であって、あなたの理由じゃない。でもね、ある意味チャンスじゃない。舞台の上なら、あなたの剣士さんなら絶対気付く」
メルは目を見開いた。
「……え……」
「──それに、ほら。見てみなさいよ」
「……!」
フレデリカに姿見の前に引っ張り出されたメルは
──鏡の中に知らない女の子が、いた。
足首まで隠れるレモン色のロングドレスに、同じ色のハイヒール。いつもなら飾り気のないセミロングの髪は結い上げられて、小さな花々とリボンがかわいらしく編み込まれている。アイメイクでぱっちりとした目の下、頬とリップは桜色に愛らしく染まっていた。
──これが、私……?
驚きでぽかんとしているメルに、フレデリカは
「シャルライン役で輝いてるあなたの晴れ舞台、あのぶっきらぼうな剣士さんに観てほしいじゃない。──がんばる理由なんて、それで十分よ。私たちのことも観客のことも気にする必要なんかない。自分のために行動できないひとが、本当の意味で、誰かのためにできることなんかない。だから──」
あなたは、あなたの舞台を思いっきり楽しんでいらっしゃい──と。
花形女優は言って、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます