第5章5話 円卓の家族

 きらびやかなシャンデリアの下、円卓には、国王と王妃、三人の王子たちがついていた。


 現グリモア国王であるグリモワール三世はとうに壮齢を過ぎ、頭髪にもひげにも白いものが目立つ。が、いわおのような威厳は健在で、緋色のマントに王笏おうしゃくを携える姿は、長年、亡者どもの侵攻を退しりぞけてきた栄華と重責を暗に物語る。


 かたわらの王妃の顔にも、上品な中にしわが刻まれ、過ごしてきた月日の積み重ねを表していた。


 グリモワール三世は、円卓を見回して満足げに微笑んだ。晩餐ばんさんとして用意されたレバーのパテに舌鼓を打つ。



「こうして家族で一同に顔を合わせるのは久しぶりだな」


「……でも、カトリーナがいませんわ。せっかくの席ですのに」



 眉根を寄せて、王妃のマリアンナが言う。若い頃にはつややかだった金の髪は色あせ、それでも王族としての気品は損なわない。


 円卓の中でひとり、毛並みの違う第三王子を見た。褐色の肌に黒い髪──異色の頭脳をもつエヴァンダール。


 褐色の末王子は、魅惑的な笑みを唇に刻んだ。



「……母上。カトリーナはロンディオとりで赴任ふにん中です。例の、防国の双璧と相棒を組んで、今頃は戦場を圧倒しているでしょう」


「ノワールの亡霊なんかと組んで、何になるのかしら。あの子はまったく、昔からろくなことをしないのね……」


「よさないか、マリアンヌ。……それで、防国の双璧とやらはどんな御仁ごじんだ。一度は会ってみたい」



 エヴァンダールは微笑んだ。



「御意に……。父上の治世三十周年の式典には呼び戻しますよ。贈り物も用意していることですし」


「ほぅ?」



 ふたりの会話をよそに、マリアンヌはカチャカチャと銀器シルバーを鳴らす。テーブルマナーにうるさい王室でそうするのは、ささやかな嫌がらせだ。



「あぁ、あの演劇だろ? わざわざ花形トップ女優アイドルを呼ぶそうじゃないか」


「……レオン兄上。渡す前のプレゼントの中身をばらさないでくださいよ」


「そうですよ、兄さん。父上にバレないようにこそこそ動いてるかわいい弟に花をもたせてやらなくては。サプライズの演出まで用意してるの、内緒にできているつもりなんですから」


「…………クリストフ兄上まで」



 第一王子のレオンと第二王子のクリストフ──ふたりの兄王子にネタばらしをされて、エヴァンダールが興醒きょうざめしたように頬杖をつく。


 王妃のマリアンヌが不機嫌に口を曲げる横で、グリモワール三世は完爾かんじと笑った。



いきなプレゼントじゃないか、エヴァンダール。わしの好みはうるさいぞ。……して、演目は何だ?」



 はぁ……と、エヴァンダールはため息を逃がした。

 ここまでバレていてはおもしろくない。──が、長兄や次兄にも最後の演出までは見通せまい……。

 エヴァンダールは人知れず、笑みを深くした。



「──『河のほとりの恋人たち』」



(第五章・了)

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