第4章3話 「助けて」
その夜、着任先のロンディオ
「さぁて、諸君。ノワールの英雄アスター殿と、我らがカトリーナ王女殿下の活躍を祝って──カンパーイ!」
兵士たちの集う大食堂で、
食堂の隅でひとり、食事を済ますつもりだったアスターは、早くも酔った兵士たちによってたちまち
テーブルクロスの引かれた長テーブルにはチキンの香草詰めに、ナッツ入りのパンとスープ。
ここは本当に戦場か? と疑いたくなるようなメニューが並んでいて……なぜかアスターの皿にこんもりと盛られていく。
「ささっ、英雄殿。麦酒のおかわりでも……! ──んん? 進んでないじゃないっすか」
「……。酒は飲まない主義なんだ。……その英雄殿っていうの、やめてもらえないか……」
げんなりと言う。
ノワール王国での働きを、ことさらグリモアで振りかざすつもりはない。たとえエヴァンダール王子やジェイドの思惑がどうあろうとも。
そんなアスターの心中を知ってか知らずか、そばかす顔の青年兵はにかっと笑った。
「んー、そう言われましても。あのカトリーナ王女と相棒を組むなんてすごいことですよっ。エヴァンダール王子に認められたも同然ですから」
「……カトリーナ王女の、あの魔術は何だ? 謡い手部隊っていうのは……?」
「あぁ、英雄ど──……じゃなかった。アスター殿はグリモアの葬送部隊は初めてでしたか。あれが我が国の部隊の『魂送り』──亡者を滅する魔術ですよ」
──通称、
グリモア王家が資金を投じて研究した、その成果なのだという。
巫女の聖性に頼らずとも、魔術によって亡者を破滅させるための秘技。地上をさまよう憐れな魂を
謡い手部隊の魔方陣にとらわれた亡者どもは、そうして消え去ったのだ──
話しながら、青年兵はうまそうに
「まぁ、魔術なんて難しいことは、俺たち一般兵にはわかりませんが……。カトリーナ王女が謡い手部隊を率いてくださってから、俺らの戦いはずいぶんラクになりました。カトリーナ王女、様々ですっ。その王女殿下とノワール王国の英雄がタッグを組むんだから、これからますます──」
「……。……『助けて』って言われた気がしたんだ……」
「──は?」
青年兵がジョッキを片手に訊き返す。けげんそうに。
宴の
「……なんでもない。忘れてくれ」
アスターはかすれる声でつぶやいた。
……言えるはずがなかった。
亡者を助けようとした、だなんて……。
けれど、前に──
交易町リビドでの戦いで、アスターは見たのだ。
この世界にわけもわからず生み落とされて途方に暮れている幼い子どものような姿を──その面影を、亡者に重ねた。
助けを求めて泣いている子どもが、その存在ごと否定されて
誰にも手を差し伸べられることなく。
ぬくもりさえも、知らないで……。
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