第9話 ミリアはこちらの世界に順応する

 図書館を出るとミリアはけろりとした顔で有人を見ていた。

 さっきまでの涙はなんだったのかと有人は思った。それはくららも同様で絵に描いたようなきょとんとした顔をしている。

「お兄様、わたくし今日はこれで帰られせていただきますわ」

 そう言い、ミリアは立ち去った。


 有人はいまだに呆然しているくららの顔を見る。その顔は子猫のようにかわいい。

「僕たちも帰るか」

 有人はくららに言う。

「私、鞄とってるくるわ」

 そう言い、くららは図書館に消える。ほどなくしてくららは息を荒くしながら帰ってきた。

 そんなに急がなくてもと有人が言うとくららは周囲をキョロキョロと見渡す。誰もいないことを確認すると有人のしなやかな腕に抱きついた。

 有人は右腕にわずかなくららのふくらみと温かさを感じた。

「だって有人君、あの人とどっか行っちゃったら嫌だから……」

 くららは若干目を赤くしている。

 きっと僕がいなくなった時の母さんもこんな顔をしていたのだろうと有人は思った。そう思うと心臓が痛くなる思いがする。

 だけど有人はあの優しくて美しいもう一人の母親サーリアも恨むことは出来ないでいる。

「大丈夫だよ。僕はどこにもいかないよ」

 そう言い、有人はくららの頭をそっと撫でた。

 くららは有人にこうされるのが大好きだった。

 有人の手のひらはその容姿からは想像できないほどごつごつしていて固い。なのにこうして撫でられると痛いなんて思わない。それどころか、不思議と落ち着くとくららは思った。


 珍しく手をつないで帰りたいというので、有人はそうすることにした。

 高校の最寄り駅から二つ目の駅でくららと別れる。別れ際にくららが顔の横で手をふるので、有人はまた明日と言い、手を振替した。

 さらに三つ目の駅で有人は降りる。

 その駅から歩いて十分ほどの所に彼の家がある。

 その家はかつて有人の父親である勇人が購入したものだ。驚いたことにこの家は勇人によって一括購入されたものだ。

 これは有人の想像だが、勇人は異世界のアイテムをこちらの世界で現金に換えていたのではないか。

 異世界ではなんていうこともないポーションなんかのアイテムもこちらではかなり貴重なものになる。

 あのサーリアが置いていった宝石もファーリア王国ではありふれた宝石だ。だけどもあの青い宝石はサーリアが言っていた以上の価値があるのではと有人はにらんでいる。

 それにしてもミリアのことを母親の美也子になんと言って説明したらいいのか。

 ミリアの容姿はサーリアに振り二つだ。

 そのミリアが美也子の前にあらわれたら、どうなるか。一度闇落ちし、魔王に取り憑かれた美也子がどのようになるか想像の範囲を超えそうだ。

 その時は自分が守ってやらないとな有人は考えた。

 そうこうしているうちに有人は家についた。

 鍵を取り出し、玄関の扉をあける。

 どうやらまだ美也子は帰ってきていないようだ。

 誰もいない玄関は寒い。


 有人は自室に行き、私服に着替える。

 この日はどこにも出かけないのでトレーナーにデニムという適当なものだ。

 美也子が帰ってきたら一緒に鍋を食べる予定だ。

 有人は学校の鞄からスマートフォンを取りだす。

 美也子から無料メッセージアプリの通知がある。

 Limeの画面を開くとあと一時間ほどで帰られるとこことだ。

 美也子が帰るころにあわせてお鍋の用意をするか。

 続いてくららからのメッセージを読みとる。


 有人君帰ってきた?

  

 うん、帰ってきた。


 そう、あのなんかこういうの見つけたの。志乃ちゃんから送られてきたの。


 確か木村志乃だったかな。バレーボール部でくららの数少ない同級生の友人だ。

 くららから送られてきたのはとあるURLリンクだ。

 なんだろうと思い有人はクリックする。

 それはショート動画投稿サイトChicktakのURLリンクであった。


 そこにはセーターにミニスカート姿のミリアが映し出されていた。

 シンプルな装いだが、スタイルがめちゃくちゃ良いミリアの魅力がいかんなく発せられていた。

 セーターなんか少しサイズが小さいようでミリアの特大巨乳の形がはっきりとわかり、はっきり言ってエロい。それにあざとい。

 有人は我が妹ながらそう思ってしまった。

 巨乳なんか子供の頃からサーリアのを見て、飽きていたと思ったのに。

 若干の頭痛を有人は覚えた。


「わたくしは異世界から来ましたの。エルフのお姫様でミリアっていいますの。皆様よろしくね」

 スマートフォンの画面の中でミリアはウインクする。

 ♡マークをみると軽く十万を越えていた。

 驚くべきことにそれは現在進行形で増えていく。

 まあ、たしかにミリアは嘘をついていたいよな。

 でも視聴者はそれを設定として楽しんでいるようだ。

 コメント欄をみると「ミリアちゃんかわいい♡♡」「やばい!!エルフが実在した!!」「ミリアちゃん応援します!!」「セクシーエルフ推し確定」など比較的好意的なものが並んでいる。

 そして数秒ほど謎のダンスをしてミリアの動画は終わる。そのダンスはミリアの巨乳がぷるんぷるんとよく揺れているものだった。


 Limeの画面に戻るとくららから「(●`ε´●)」という顔文字が送られてきた。

 どうやらくららはかなりご立腹のようだ。

 明日なだめないとなと有人は思った。

 しかしミリアのやつ異世界からこっちにきたばかりなのにもうSNSを使いこなしていることに有人は驚愕を禁じ得ない。

 とりあえず有人はミリアのSNSをフォローした。


 それからしばらくして母親の美也子が帰ってきた。

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