第7話 転校生と彼女
お昼休み、有人は交際相手の根岸くららと一緒に校舎裏のベンチで昼食をとっていた。
この日は一月には珍しく、比較的暖かかったので、彼は外でご飯を食べることにした。
「はい、有人君麦茶どうぞ」
大きな水筒からコップに麦茶を入れ、根岸くららはそれを有人に手渡す。
「ありがとう、くらら」
有人はそれを受け取り、湯気のたつ麦茶を一口飲む。
根岸くららは小柄な女子であった。身長は百四十八センチメートルで胸もお尻も薄い。視力がよくないので度の厚い黒縁眼鏡をかけている。
黒く豊かな髪が特徴的で、長さは腰まである。
本が読むのが好きで、大学も私立の文学部に進学する予定である。
「あの…… 転校生って有人君の妹さんなの?」
クラスメイトでもある根岸くららは朝から気になっていたことを有人に尋ねた。
金髪青眼で制服のブレザーがはち切れんばかりの巨乳の美少女のことを。
それにミリアと名乗ったあの美少女の耳は笹の葉のようにとがっていた。
その様子はくららが好きなファンタジー小説によく出てくるエルフそのものだった。
彼女は有人の妹と名乗ったが、その容姿は彼とは似ていない。有人は身長が百八十センチメートルと高めだが、それ以外はあまり特徴のない容姿であった。ごくごく一般的だと言っていいだろう。
優しい瞳がくららは好きなのだが、それは個人の感想だと彼女は思った。
「ミリアね、あれは母さんが違うんだ。前に話したろ、遠い外国にいるもう一人の母さんの話を……」
有人はお弁当の唐揚げをパクリと食べる。
その唐揚げは冷凍食品であったが働いている母親が作ったものは美味しいものだと有人は思う。
「どうしてこんな時期に来たのかしら?」
もう一つの疑問をくららは有人に投げかける。
有人はさあねと答える。
高校生活も残り少ないこの時期にどうしてミリアがこちら側にやってきたのか、それは有人には分からない。
まあそれはこちらの事情で異世界には関係ないかと有人は考える。それにしてもミリアのことをくららにどこまで話していいか、それが有人の悩みだ。
ミリアの出自はあまりにも特異すぎるからだ。
まあ、それは一旦棚上げしよう。
有人はお弁当を平らげ、ややぬるくなった麦茶を一気に飲み干した。
午後の授業が終わり、有人は職員室に向かう。
担任の高本教諭から就職の面接予定日が決まったとの連絡を受けた。
「新島君の成績なら大学進学も大丈夫なんですけどね」
高本教諭は言った。高本は四十代後半のぽっちゃりタイプの女性であった。ちなみに新島というのは母親である美也子の旧姓である。
有人の通う高校ではほとんどの学生が進学するため、高本は何度も進学をすすめていた。
「いえ、先生。僕は働きますよ」
と有人は短く答え、職員室をあとにした。
このあと、有人は図書館に向かう。
根岸くららのもとに行くためだ。
くららは図書委員なので、放課後はそこで働いている。
図書館の前で巨乳の前で腕を組むミリアと遭遇した。
「待っていましたわ、アルトお兄様」
ふふっと魅力的な笑みを浮かべる。
アルトの通う高校の図書館はかなり大きく、談話室に似たスペースもある。談話室と言うには折りたたみのテーブとパイプ椅子が置かれているだけの簡易的なスペースではあるが、そんな場所でも生徒たちには重宝されている。
もちろん勉強や読書している学生もいるので、あまり騒げないが静かに会話するぐらいは許されている。
有人は仕方なく、そこにミリアを連れて行く。
派手な容姿のミリアに否応なく周囲の視線が集まる。
「まったくお兄様ったら、三年も音沙汰がないなんてあまりにもひどくはございませんか」
開口早々、ミリアは有人に嫌味を言う。
このやたらとていねいな物言いはサーリアにそっくりだと有人は思った。
ミリアは容姿だけではなく、その立ち居振る舞いも母親のサーリアに似ていると有人は思った。
「仕方ないだろう、こっちに来てから忙しかったんだから」
これは有人の本心だったからだ。
こちら側では有人と美也子は行方不明扱いになっていた。それが突如帰ってきたのだから、けっこうな騒ぎになった。
父親の勇人がかつて働いていた会社の人間が何かと手助けしてくれて、今の平穏な生活を手に入れることができた。
有人の就職先も父親が働いていたという会社である。
「まあそのことは良いとしましょう。お父様もお母様も会いたがっていますわ。それにエドワードの結婚式にも来なかったでしょう」
ミリアは言った。
その言葉でエドワードが無事であったことを知った。ミリアはシュウもリンダも生きているということを有人に告げた。
嘗ての仲間たちが無事なことを知り、今更ながら有人は安堵した。
「有人君……」
ミリアと話しているとくららの声がしたので、有人は振り向く。そこには数冊の本を抱えたくららが立っていた。
「ああ、そうだミリア。紹介するよ。僕の彼女の根岸くららさんだ」
有人はくららをミリアに紹介する。
くららはぺこりとお辞儀した。
「彼女ねえ……」
ミリアはまたもやその特大メロン級の胸の前で腕を組み、くららを目を細めて見た。
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