第4話勇者と魔王

 泉の国クヴレは魔王軍の猛攻にあい、まさに滅亡の縁に瀕していた。

 王都はすでに陥落し、東の城塞都市ラングが落ちればこの国はもう終わりである。

 ラング防衛の指揮をとるレインは疲労の極致にあった。

 魔王軍の獣兵士団はどれ程倒してもきりがない。倒しても倒しても、どこからともなく奴らはわいてくる。

 それにひきかえ、こちらの兵士たちはほとんどが傷つき、今にも倒れそうなもの達ばかりだ。

 レインは最後の王族として、兵士たちを鼓舞しているが正直それがいつまで持つかわからない。


 城塞を登ってくる魔王軍の兵士たちを得意の剣技で葬るが、だんだんと腕が重くなる。鉛のように重い腕を気力だけでふるう。

 肩で息をし、周囲を見渡すとすでに何人かの獣兵士が自分たちを取り囲もうとしている。

 レインは生き残りの兵士たちに声をかけ、密集陣形をとる。

 自分たちが突破されれば、この城塞都市は陥落し、ついにクヴレは滅びてしまう。

 歯をくいしばり、レインは決死の抵抗を試みる。


 その時、バリバリと天をさくような轟音が鳴り響く。

 思わずレインは空を見上げる。

 そこには小型の飛空艇が浮かんでいた。

 飛空艇はすでに滅びた過去の高度テクノロジーの遺産だ。

 それを使うものはただ一人である。

 ファーリア王国の勇者だけだ。

 すなわち勇者の仲間パーティーが援軍にかつけたということだ。


 その飛空艇から数人の男女が飛び降りてくる。

 一人の男性、いや少年と呼んだほうがいいだろう。その少年が着地し、背中の大剣を抜き放つと一振で五体もの獣兵士をなぎ倒した。

 続いて少女が飛び降りてくる。

 絶世のと形容したくなるほどの美しい、金髪の少女だった。その耳は笹の葉のようにとがっている。

 少女は間違いなくエルフだ。

 現存するエルフはファーリア王族だけである。


「もう、アルトお兄様ったら無茶ばかりして」

 美少女は顔を真っ赤にして怒っている。


「そんなに怒るなよ、ミリア。今はラング防衛隊を助けるのが先決だ」

 そう言いながら、アルトと呼ばれた少年は大剣をふるい、獣兵士を葬っていく。


 さらに飛空艇から三人の男女が飛び降りてきた。

 魔剣士のリュウ、神官のエドワード、魔女リンダであった。


 勇者アルトたちの活躍により、城塞都市ラングは守られた。

 翌日には七カ国同盟軍総司令官のハヤトとファーリア王国騎士団長のサーリアが援軍を率い駆けつける。

 同盟軍と合流したレインたちクヴレ軍は反転攻勢にでる。

 いくつかの死線と激戦をくぐり抜け、クヴレ王国の王都を取り戻すことができた。


 王都奪還に成功した数日後、レインに案内されてアルトとミリアの兄妹は一人の兵士のもとを訪れた。

 ベッドに白髪の老人が寝ている。

 痩せ細り、髪は真っ白であった。

「驚かないで聞いてください。彼はまだ二十歳です」

 レインが言った。

 

 アルトは絶句した。

 どう見ても、ベッドで寝ている人物は老人にしか見えない。


「魔族の瘴気にあてられたものはこのようになると文献で読んだことがあります」

 絞り出すように王女ミリアは言う。

 

 レインの話ではその兵士は魔王の姿を見たと言う。


 老人の姿になった兵士はなにかうわ言のようなことを呟いている。

 ミリアはその兵士の口元に形のいい耳を寄せる。


「この言葉は…… お兄様ならわかりますよね」

 手招きし、アルトにもその老人の言葉を聞かせる。


 アルトはその言葉を聞き、とっさに口をおさえる。


「彼はなんといっているのですか?」

 レインが勇者アルトに尋ねる。


「これはぼくと父さんの祖国の言葉だ……」

 そこで一度、アルトはミリアの緑色の瞳を見る。王女はただ頷くだけだ。


「彼は帰ってきてと言っている」

 勇者アルトはそう言った。


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