十杯目 レベッカ・ドレイク
「レドさんって、作家さん誰がお好きなんですか?」
「俺は…オルガナさんかな。読んでいると、ミステリアスな世界観に没入できるのが好きだ。」
「オルガナさんですか!私、まだ手を出してないんですよね~。どの小説がおすすめですか?」
「えーと…『ある館でのストライキ』かな。かなり不思議な作品だけど、俺は好きだった。」
二人で話しながら歩いていると、かなり人通りが多い場所に出た。
「サヤさん、手を離さないでくださいね…」
「は…はい!…レドさんの手…暖かいです…」
「…サヤさんの手も暖かいですよ…とても…」
二人がイチャイチャしていると…
ドンッ…
「失礼。」
誰かとぶつかって、そのまま人に流されてはぐれてしまった。
周りを見渡しても、背が低いサヤは何も見えない。
反対に、レドはサヤの場所を把握できたが…人が多すぎてその場にたどり着けない。
「レドさーん!どこですか?」
「サヤさん…俺はここに…」
シャイなレドは大きな声が出せない。
大人数に注目されることが耐えられないのだ。
(声が出せない…!こんな人が多いところだと…)
サヤもあわあわしている。
「どうしよう…わかんない…人に聞いてみよう。あの…すみません!」
意を決して人に声をかけてみる。
「はい、何でしょうかお嬢さん…僕をナンパしてきたのかい?」
(うわっ…ナンパ待ちの人に話しかけちゃった。うまく振り切らないと…)
面倒くさい人に声をかけてしまった…
「僕は暇だけど…君は?」
「私、人を探してるんです!背が高くて、サングラスかけてるイケメンの…」
「イケメンとはまさしく、君にとっての僕じゃないか!どう?僕とカフェでも…」
話が通じる相手ではないようだ。
どうにか振り切ろうとするも、グイグイくる。
「離してください!私彼氏いるんです…!」
「君みたいなかわいこちゃんを放っておく方が悪いね。」
サヤがナンパ…というか迫られているのに気づいたレドは、急いでサヤの所へ向かった。
「すみません…向こうに彼女がいるんです…!」
なんとか人だかりを抜けて、サヤの元にたどり着いた。
「彼氏いるの?じゃあ今どこにいるんだい?どこにもいn」
「俺の女性に何か?」
男をサヤから引き離し、なんとか助けることができた。
「あ、レドさん…!」
「サヤ、遅くなってすまない。行くぞ。」
唖然としている男を差し置いて、二人は手を繋いで本屋の方へ向かった。
しばらく歩き、本屋にたどり着くと…
「サヤさん、本当にすまなかった…ナンパされてるのに気づかなかった挙げ句、呼び捨てに…」
そう言って、レドは頭を下げた。
サヤからしてみたら、助けられた立場なので少し戸惑った。
「いえ、助けていただきありがとうございました!あの方、全然話通じなくて…それに…」
「それに…何ですか?」
「呼び捨て…嫌じゃなかったです…」
「…本当か?それならよかった…」
レドが、これからも呼び捨てでいい。という意思に気づかなそうなので…
「あの!これからも、呼び捨てでいいです…むしろ呼び捨ての方が…」
「じゃあ…これからは呼び捨てで呼びますね…?その…サヤ、そろそろ本屋に入らないか?」
「そ…そうですね!入りましょう!」
(呼び捨て…本当にカップルみたい…レドさん好き…)
(呼び捨てでいいのか…?まるで本当のカップ…いや、煩悩退散!)
二人は本屋に入り、小説コーナーに移動した。
入り口には、今人気の作家の本がずらりと並べられていた。
「レドさんの本ありますかね~…?私、読んでみたいんです!」
「あまり人に読まれて感想言われるの慣れてない…っていうかされたことないから照れるな…」
改めて、入り口に置かれている本を見る。
「今人気の作家さんコーナーですね。私、この方の本すごく好きなんです!」
「…そ…そうか…」
「…レベッカ・ドレイクさんの本、あまり好きじゃないですか?」
「そんなことない…読んだことがないだけだよ…」
実は…というかもうわかってると思うが、レベッカ・ドレイクはレドである。今は自分の本が好きと言われて、戸惑っている最中。それも好きな人に。
「では、レドさんの分を買いませんか?私の推し作家さんなんですよ~!」
「サヤ、耳貸してくれ。」
頭に?が浮かびながらも、レドに耳を貸す。
「レベッカ・ドレイクって…その…知り合い。」
あと一歩で、本当のことを言えなかった。
しかし、サヤはとても驚いている。小声で話し続ける。
「え…レベッカ・ドレイクさんと知り合いなんですか!?会社の関係で…?」
「ああ…そんな感じ…だから、好きってこと伝えとくよ…」
「ありがとうございますっ!!本当に大好きなので…嬉しいです!」
サヤの喜ぶ顔を見て、まぁ…いいか。と思うレドなのであった。
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