第4話
目を覚ましたら暗かった。
ヴィルジニアと会話した後、ぼんやりしているうちに本格的に寝てしまったらしい。
(どうしよう。もう閉館していそうだし、きっと朝まで開かないよね。朝になって誰かに見つかったときに、盗みに入ったと疑われたらどうしよう)
入学以来、もともと平民のロミーナをよく思っていなかったひとたちには、ここぞとばかりに叩かれているはず。
そこに図書館不法侵入と窃盗未遂を加えられたら、退学だろう。
どうせ退学なら、ポーラに謝る必要もないのでは、という考えがかすめた。
自暴自棄、破れかぶれ。落ち込むにいいだけ落ち込んでいる。
そんな自分に気付いて、ロミーナは勢いよく椅子から立ち上がる。
「よし、まずは食糧でも探そう」
「無い」
うわっとロミーナは悲鳴を上げる。
かなり近い位置で、男の声が答えた。
慌てて振り返ると、すうっとカンテラを持ち上げる手が見えた。
「まさか閉館の鐘に気づかなかったのか? 鐘……今日鳴らし忘れたのかな。う~ん……やばい、俺も思い出せない」
声は、途中までロミーナに尋ねていたはずが、最終的には鐘に関して自問自答を始めた。寝過ごしたロミーナは鐘を聞いていなかったので、その方向で話に乗ることにした。
「鳴らし忘れだと思います、聞こえませんでした」
「君が豪快に寝落ちていただけではなく?」
ノータイムで言い返されて、否定することもできなかったロミーナは口をつぐむ。
カンテラを持ったまま、さらに声は近づいてきた。長身の男性の輪郭。腕を上げようとする仕草に気付いて、ロミーナは「待ってください!」と声を張り上げる。
「私を見ないでください」
「君はこの図書館に住み着いた悪魔か何かなのか」
「いかにもです! 見ると死にます。具体的に言うと、顔が判別できるくらい見ちゃったり、二回目会ったときにぴんとくるくらい覚えてしまったりするともうだめです。死にます」
「やたらに殺したがりだなコノヤロウ。こんな悪魔がいるなんて初めて知ったぞ!」
威勢よく怒ってきたわりに、声は楽しげだった。ロミーナはつい、調子に乗ってしまった。
「まるで他にも悪魔を知っているみたいですが、図書館悪魔図鑑でも作ってるんですか? 私もコレクションに加えますか?」
「図鑑も何も俺が悪魔だよ。いやぁ、長いことこの図書館に住み着いているのに、君のような存在には全然気づかなかった。名前は?」
答えてはいけない。
危ういところで気づき、ロミーナは言いかけた名前を呑み込む。それから、ほんの少しのネガティヴな感情を込めて告げた。
「ポーラです」
「嘘だろ」
看破された。それもやむなし、と思いつつ素直に窮状を訴える。
「ところで大変おなかがすいていまして」
「焼き菓子くらいしか持っていないが、閲覧室で食べるわけには」
「持ってるんですか? 奇跡ですね」
「飲食可能な場まで移動する。君の顔は見ない」
自称悪魔は大変協力的だった。ロミーナは逆らっても事態が好転しないことはよくわかっていたので、「ついておいで」と先に行く悪魔の後に続いた。
見上げた背中はとても広くて、カンテラの明かりを遮っている。置いていかれないように小走りに進んだ瞬間、どん、と背中にぶつかり「こら」と注意をされた。
気をつけて歩きなさい、と高い位置から声が降ってきた。
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