第6~7の異界の扉
5つ目の扉で聞かれた「ここにいる理由」考えてみても分からない。
初めてここに来た時こそ疑問に思ったが人の言葉を話す猫に呆気を取られたのかいつしか疑問に感じなくなっていた。
「……由美ちゃん、次はどうしようか?」
「あ、ごめんねクロちゃん。そうだなぁ」
赤黒い禍々しい色をした扉を選んだ。
「すごい色だね、さっきとは大違いな感じがする」
「ここは君が選ぶことはない。選ぶというより選ばれた人が来る場所だ。それでも見るかい?」
「せっかくだし見たいな」
「言っておくけど怖い所だよ」
そういうとクロちゃんはブルっと体を震わせて尻尾をぺたりと床に降ろした。
「じゃあそれは次に回してその隣にしようかな」
隣はくすんだ和紙のような変わった色をしている。
「うん、それがいいよ」
今まで通りにクロちゃんが扉を開けて進むと小さな部屋に出た。
部屋は事務室のような作りで今までの世界とは趣が違う。
部屋の真ん中に仰々しい大きな机がぽつんとあり、窓はなく入ってきた扉とは違うものが2つ奥に見える。
1つは灰色、もう1つは先ほど避けた赤黒い色をしている。
「おや? この時間に来るとは聞いていませんが」
気が付くと机に一人の男性が席に付いている。
「連絡ミスか、それともこのご時世に飛び入りですかね?」
男性はスーツに度のきつい眼鏡をかけた中年でこれもまた今までの異世界とは違う。
「すいません、見学できたんです」
「見学? ここには見るものなんてないですよ。おや?」
机の上には1枚の書類が置かれている。
「君のような幼い子はそっちの扉って私は決めてるんです、こんなものはいりませんね」
男性は右手で灰色の扉を示すと目を通していた紙を破いてしまった。
「ですから見学ですよ、すぐ帰りますよ」
「おや、あなたもいたんですね」
男性は厳しい目でクロちゃんを睨んだ。
「見学ならここからもと来た扉から出てから改めて次の扉へ行ってくださいね。ここから先の扉を進むと帰ってこれませんから」
言われるままもと来た扉を通って戻ってきた。
「クロちゃん、さっきの人と知り合いなの?」
「いや、初めて会ったけど」
そうなると先ほどの男性の口調が少し気になる。
「あの部屋にもドアがあるんだね」
「そうだね、さっきの人も言った通りあそこから進むと帰ってこれない」
「どうして?」
「赤黒い扉の時説明したようにこの手の扉は選ぶでは無く選ばれて行くところなんだ。例えば君はさっき灰色の扉に選ばれただろう? だから赤黒い扉へ選ばれなかった。今からその扉へ行ってもいいが君とは完全に無関係だよ」
「怖いところが無関係なら安心して見られるよ」
そうして赤黒い扉を潜った。
「すっごい煙。ドアの近くだけは煙来ないんだね」
昔、お盆におじいちゃんの家に行ったとき色々な親戚の人が一つの部屋でタバコを吸っていたのを思い出す。
「それになんて暑さだよ、すぐにバテそうだ」
「進もうにもこれじゃ道が見えないね」
「あ、いたいた。そうかドアはここにあったんすね」
ゆっくりと煙が割れて体格のいい男性が小走りでこちらへ来た。
「見学客が来るって報告があったんですけどドアの場所なんて下っ端の僕にはわかんないでしょ? それで探してて時間がかかってしまいました」
男性は上下作業着を纏っている。
「暑くないですか? その格好だと」
「見学客ってお嬢さんか。変わり者だね、若いのに」
「一応ショッキングな場所は避けるように言付かってます。そうなると退屈な気もしますがね」
「お兄さんの周りだけ煙が無くなるんだね? すごいや」
「ありがとう、そうしないと仕事にならないからね」
「仕事してるんだ。なんか扉の世界で私語してる人って少ない気がする」
「そうなんですか? 俺もそっちに行けばよかったなぁ」
避けた煙に沿って歩いていくと一気に視界が開けた。
「ここはもう使ってません。使ってたら到底連れてくることは出来ませんでしたが」
そこには大きな池が広がっている。真っ赤に見えるが水面は透明だ。
「啓蒙ってこういうことなですかね? 現実的な生理現象がこっちにまで影響を及ぼしているんです」
「池ですよね? ここ」
男性の言っていることが難しくて全然理解できなかった。
「池です。僕が来てすぐに閉鎖されてこの状態です。今じゃこの半分以下のサイズで運営してますよ」
「古くなったから新しくしたの?」
「いい質問ですね、答えはノーです。利用者が減ったのでこのサイズである必要がなくなったからです」
利用者とはここで泳いだりしていたのだろうか、しかしなぜ池底が赤いのか。まるでここの扉の色のようにおどろおどろしい。
「お次はこちら、どうです? 何かわかりますか?」
見た目はバーべキューグリルのように見えるがサイズが大きい。テニスコートくらいはある広さだ。
「バーベキューセットにしては大きすぎますよね」
丈夫そうな太い網は焦げと錆でボロボロに見えるし、所々に肉のようなものがこびり付いている。
「近いですよ」
網の下には真っ黒な炭が無造作に転がっている。
「ここは閉鎖されたわけでは無いのですが、ここを利用するような連中はそもそもこの世界に来ないって言う間抜けな施設に成り果てましてね。今じゃこの様です」
「ひどい匂いだ、早く次に行こうよ」
クロちゃんは緑色の扉の世界から口数がとても少なくなった。
「お見せできるのはここが最後ですかね、見ての通り山です、山」
山肌は禿げ、生えている木々には葉が1枚も無い。土を集めたような山だ。
「何にもない山ですね、ここも使われてないんですか?」
「使われてるところには連れてこれないですよ」
ここにきて急にこれらの場所が使われているイメージが頭にわいてきた。
「どこかで見たことがある気がします……。どこだろう」
「モデルにした作品は数多くありますから、不思議じゃないですよ。じゃあ戻りましょうか、ドアまでお送りしますね」
どこで見たんだろうか。
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