第9話お説教を受けました
「貴方、一体何をしているの?」
最上紗弓ーー日本で最初にS級の称号を獲得し、日本最強の異名を持つ覚醒者、そして、俺が覚醒者を目指した……俺の目標。
そんな人が今俺の前に立っている。
そんなことより、俺死ぬ。
「これ、飲んで」
俺の前に出されたのは、体力回復薬と、炎耐性を使用者に付与するポーションの二つが渡された。
「なんでこのダンジョンに来たのかは聞かないけど……ちゃんと適正ランクは守ってダンジョンに潜らないとこうなるって勉強になったね」
そうして俺に屈託の笑みを浮かべてくれ、事情を聞いてくれないと言う言葉が今の俺には深く刺さった。
「!?後ろ!」
「大丈夫」
俺たちが会話をしている時、後ろからこちら目掛けて突っ込んでくるワイバーンに紗弓さんが気づいてないと思い、声を上げるが…俺の前にはなにかに切断されたワイバーンの首しか見えなかった。
『経験値を獲得しました』
『レベルが50に上昇しました」
?俺が倒して無いのに経験値が入った……もしかして一ダメージでも与えてそれが倒されたら経験値が上がるのかな?
「私は大丈夫だから早く飲んで」
その言葉を聞き、眼の前にあるポーションを体に流し込む。
「はぁはぁ、ありがとう、ございます」
「お礼を言われるのは良いけど……君は早く帰らないと、死ぬでしょ?」
そうだ、俺はここで帰らないと今すぐ死んでしまう…でも、ここで帰ったら金が稼げずに、そのまま愛が死んでしまう。
「だめなんです」
「?何か言った?」
「だめなんです!ここで帰ったら救える奴が救えなくなってしまうんです!」
「……今君を帰さないと協会の人のお願いを破ってしまうことになる」
だから帰れとでも言うのか……じゃあ、俺は明日ここにもう一回潜ろう。
「でも、ここで君を強制的に帰したら、どうせ明日辺りにもう一回ここに潜ろうとするんだでしょ?」
「ゥッ!」
心を見透かされたかのような感覚がするし、返す言葉も無い。
「分かったこの一層だけ攻略してから帰ろうか……良いね?」
「はい!」
そうして俺たちは【霜凪ダンジョン】の一層を進んでいった。
「それにしても貴方、ランクE何だって?」
「はい……その通りです」
「そのランクでよくこのダンジョンに入ろうと思ったね」
「本当にその通りです」
俺は紗弓さんからちょっとしたお説教を受けていた……しょうがないじゃないですか、愛を救うためにはこういうダンジョンに潜るしか無いんですから……とは流石に口をすべらせる訳にはいかなかった。
「それにしても。本当にお強いんですね」
「私?まぁ、仮にも日本最強だしね」
そう俺に自負するのも本当に理解できるレベルで紗弓さんは強かった。俺たちが談笑している間にもワイバーンやゴーレムたちが襲ってくるが……それでも紗弓さんの相手にはならなかった。
俺たちが歩いてきた道には、ワイバーンやゴーレムの死体が大量に転がっていた……ついでにレベルも59にまで上がった。
「それにしても、このダンジョンワイバーンやゴーレムが居るおかげで、レベルが沢山上がりますね」
「レベル?貴方、レベルが上ってるの?」
?普通上がるものじゃないのか?
「普通はラストアタックをした人間にしか経験値が与えられず、その間に攻撃をした人間には経験値が入らないんですよ」
?じゃあ、俺っていま、普通じゃないことが起きてるのかな?
「ここに入ってきたときのレベルは?」
「40です」
「それで良くこのダンジョンに入ろうと思ったね」
少し呆れ気味に指摘されてしまう……本当にその節は申し訳ありませんでした。
「それで、今のレベルは?」
「59です」
「じゃあ、今の間に第三進化までしたのね」
本来は55に上がったら、第三進化が始まるため、ここで進化していると考えるのが普通だった。まぁ、まだ進化してないんですけどね。
「これって普通じゃないんですかね?」
「普通じゃないよ!その特異なことを協会に報告したらー」
「したら?」
「誰ともパーティーを組んでもらえなくなるかもね」
「な、なんでですか!」
なぜ協会に報告したらパーティーを組んでくれる人がいなくなるのか分からなかった。
「ある一定の人以外は、自分が経験値を得るために協力するふりをするの……そこに突然自分がダメージを与えたモンスターを倒したら、自分にも経験値が入りますっていう人が現れたら?」
「ずるいなぁって思います」
自分が無意識に答えた言葉……それをもう一度理解するのに時間はかからなかった。
「今貴方が思った通り……ずるいと思うなら、最初から誘わなければ良い。悲しいことに覚醒者は皆最強を目指してダンジョンに潜ってるから、自分が倒したモンスターと同じ経験地が入るという特異な人は邪魔な訳」
そこまでして、俺には一個疑問が出てくる……なんで紗弓さんは俺がこの話をしても嫌がらないんだろう?
「それじゃあ、なんで最上さんはここで戦っているんですか?俺にも経験値が入るのに」
「さっき言ったでしょ、ある一定の人以外って……私、案外変わってるから」
そんなふうに微笑んでくれる紗弓さんが今の俺にはとても眩しく、そして羨ましく見えた。
俺もこんなふうに笑っていたいなぁと。
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