第8話絶望から希望へ

愛の寿命が二週間と発覚した次の日、俺は新幹線に乗り、あるダンジョンを目指していた。




「ここがーー」




最もお金を稼ぐ事に特化したダンジョン……【霜凪ダンジョン】




「すいません、この中に入りたいんですけど」




「では、認証カードをお見せください」




ダンジョンには覚醒者協会からスキルを手に入れた時に配られる認証、カードと言われる物があり、これが覚醒者達の中での身分証の役割を担っており、このカードに覚醒者としての個人情報のすべてが詰まっている。




「これです」




「確かにーーすいません、本当にランクは最低ランクのE級で間違いは無いですか?」




「はい」




「では、これで中には入れますがーー何があっても協会は責任を負いませんからね?いいですか?」




「わかってますーーなんとしてでも帰ってきます」




そうして俺はダンジョン内に足を進めていった。




「何をそんなに生き急いでいるのかしら」




そのような言葉が聞こえた気がしたが、それでも俺の足は止まらなかった。












【霜凪ダンジョン】第一層




そこは広々とした平原が広がり、雲一つもない晴天と、ピクニックには最適な場所だった……それが現実世界であるならだが。




上を向いて見ると、無数のワイバーンたちが空を駆けており……平原を見渡すと、ヴェルテックと会ったときとさほど変わらないほどの量のゴーレムが存在していた。




【霜凪ダンジョン】難易度星五 別名【欲を殺すダンジョン】


俺のような欲に目が眩んだ者を殺すダンジョンである。




「今の俺には討伐は不可能なダンジョン」




それでも、俺がここをクリアしないと到底30億なんて集まるはずがない。




俺がダンジョンの入口で足を止めていると、それに気付いたワイバーンが20匹を引き連れてこちらに突っ込んでくる。




「はぁぁぁぁぁ!!」




短剣を手に取り、突っ込んでくるワイバーン目掛けてこちらも突っ込む……刺さるわけが無かった。


硬い皮膚に覆われたワイバーンはこちらの短剣をものともせず、お得意の炎属性の魔法、【火球(ファイアーボール)】でこちらを炙ってくる。




「あぁぁぁぁぁ‼」




熱い……でも、こんなとこで終わったら誰が愛を助けてやれる、今ここでやらずに、いつやるんだ!




影を腕に巻き、【基礎剣術】を発動し、今の俺がこの短剣と共に出せるすべてを乗せた一撃をワイバーンに向けて放つ。




「ガキン!」




「ッ!」




それでも、ワイバーンの硬い皮膚を攻略することが出来なかった。




そしてワイバーンは俺が動揺しているうちに俺の腹に薙ぎ払い攻撃をして来ており……そのまま、命中した。


地面が割れる、背中が痛い……剣を出し、最後の攻撃を出そうとするが、その前に火球が俺の体に命中する。


もう声すら出ない……あるのは体が燃やされていると言う感覚と、次の攻撃の準備をワイバーンへの恐怖だけだった。




俺は後悔をしていた。なぜ”無能”と言われた俺が、こんな死ぬ可能性がほぼ百%の所にやって来たのか。しょうがなかったんだ、あと二週間以内に30億を集めるためにはこうするしか無かったんだ。これで死んだら元も子もないが……愛、先に向こうで待ってる。




俺が死を眼前に捉え、火球が眼前目掛けていた……しかし、それが俺の体に到達することは無かった。


俺の目が捉えたのは、背中まで伸ばした金髪をなびかせ、ブレストプレートを身にまとい、剣を腰に刺していた……日本最強の『覚醒者』……最上紗弓もがみさゆりであった。




「貴方、一体何をしているの?」












影山がダンジョン内に歩いていった直後……一人の女性が覚醒者協会の人に近づいていった。




「すいません、このダンジョンに入りたいんですけどーー」




「あぁ、最上様ですか、どうぞ……一個お願いしたいんですけど」




協会の人間が、覚醒者……しかも、今からダンジョンに行こうとしている覚醒者にお願いをすることは珍しい。


不思議がった紗弓は足を止め、協会の人間の話を聞くことにした。








「つまり、Dランクの人が、このダンジョンに入っていったって事?」




「そういうことです」




紗弓は一個の考えにたどり着く……ありえないという考えに。




「このダンジョンがどういうところかマスコミや、我々最上位覚醒者からも言ってるはずですが、その人は知らなそうでしたか?」




知らないのなら、このダンジョンの危険度を知らせる別の方法を考えなければと、別のことを考えていた。




「多分違います……確認した時、このダンジョンの危険度をしっかり把握している人間でした」




その言葉を聞き、またもや一個の謎が生まれる……なぜ危険なことを分かっておりながら、このダンジョンに入っていったのかがどれほど思考を巡らせても答えにはたどり着けなかった。




「でも、どこか、張り詰めているような雰囲気を感じました……なんというか、急いでいるようなーー」




そこからの話を紗弓は覚えていない……思考を巡らせたどり着いた答えが、なにかの事情で多額のお金を短期間で必要としているが、ランクが足りないのに、このダンジョンにやって来たとしか、考えられなくなっていた。




「わかりました、その願い私が引き受けます」




「本当ですか!!」




そして一個のルールを決めた。


生きていたら強引にでも連れ戻す……死んでいたら、そのまま放置。


放置はどうかと思い代替案を出そうとしたが、協会は責任は負わないため、その場の放置しか出来ないらしい。




「では、Dランク覚醒者のことよろしくおねがいします」




「わかりました……では行ってきます」




紗弓がダンジョンに入り、悠生と合流したのは十秒後のことだった。

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