第7話七百万

”無能”がダンジョンに入ってから十時間が経過した。




「遅い」




あんなに雑魚ならば、あのボスがやられるはずがない……善戦している?そんなはずはない。




「ゲートから誰か出てくる」




蛇の尻尾が見えたら、我々の勝ち……人間が見えたら、もう一回作戦を作り変えなければいけない。




「すいません、魔石の買い取りをお願いしたいんですけどーー」




!?どうやら我々の作戦は失敗に終わったらしい……これ、本部には私が怒られるのかなぁ、嫌だなぁ。




「あの、大丈夫ですか?」




「すいません、買い取りですね」




あのボスは一体どれほどの力を蓄えていた事でしょうかね……B級?




「失礼ですが……これは一人で貴方が倒したのでしょうか?」




「はいそうですが……他に誰か人でも来たんですか?」




「いえーー」




この人B級を一人で倒せる力を持ちながら、無能と蔑まれ来たの!


B級の一人討伐なんてA級でも無い限り不可能に近いはず……これほどの成長スピード、いつか私達の危険になるかもしれない……少し考えすぎかもしれないけど、一応見張りをつけておこう。




「B級魔石が一つだけでしょうか?」




「あ!すいませんーーこれがまだ残ってました」




私の前に見せられたのは……C級魔石が少なくとも60個は転がっていた




「これで何円になりますかね?」




「B級魔石が百万円、C級魔石が一個当たり十万円になりますのでーー七百万円でしょうか?」




「な、七百万円!!」




「買い取りますか?」




「ぜ、是非お願いします!!」




凄い食いつき……お金が足りないのかな?なら最近強くなったと考えるべき……こんなスピードでは強くなれない筈……なにか特別な事をしているのかもしれない。




「つい最近まで”無能”と言われていた筈ですが、どうしてこんなに早く強くなれたのですか?」




ここをはぐらかすのか、正直に何かを答えるのか……答えたのなら、見張りをつける意味がなくなるがーー




「普通のことですよ……ただレベルを上げまくるだけです」




「そうですか……ではこちら買取金額の七百万円でございます、キャリーケースに入れますか?」




「銀行口座にお願いします」




何故か、祈願するような声で言われてしまった……そんなにキャリーケース嫌なんですかねぇ?




「わかりました……終わりましたので、移動してもよろしいですよ?」




「ありがとうございました!」




自分が殺されかけたとはつゆ知らず、その犯人に感謝を告げるなんて……不思議な人だ。




私が下に目線をやり、もう一度上げると……そこに”無能”と呼ばれた人はいなかった。












「やった!!!!」


「七百万だ七百万!」


俺は今まで出したことも無いような速度で、地面を駆けていた。


それにしても七百万……か、これだけあればいろんなことができるけど、とりあえず、間に合ってくれ!




車を持っていない俺ができることは全身の力を使い、妹がいるところまで走り抜けることだけだ!








病院の中に入り、階段を駆け上がり、妹の部屋で待機している先生を問いただす。




「先生!妹はーー愛あいは大丈夫なんですか!」




「お兄さん来ていただけましたか!いくら電話しても繋がらないものでしたから」




妹は病気を患った……しかも、俺が『覚醒者』になったことが大きな原因でもある。




「過負荷病ーーけしてMPへの耐性が高く無い者が、MPの強い影響を受けてしまい、高熱は出すが、体はもう死んでいるかの如く動かなくなる病気」




「どうですか!手術の手立ては見つかりましたか!」




妹にはーー愛にはまだ時間があるはずだ。




「手立ては見つかりました……しかし、この病気を治すには30億が必要です」




さ、30億……何回ダンジョンボスを討伐すれば良いんだ。




「そして、この手術の成功確率は十%とも言われています」




「十ーー%」




時間があるなら、俺がレベルを上げて、ダンジョンボスを周回しまくればいいだけの話ーーのハズだった。




「こんな事を言うのは心苦しいですが……妹さんの事は諦めてください」




!?ーーこいつ!諦めろだと……なんで家族にそんな冷たい事をしてあげないといけないんだ!




「てめぇ!なにをーー」




「妹さんの寿命は持ってあと二週間なんです!」




「言って、やが、るんだ」




愛の寿命が二週間?そんな馬鹿な、この間の検診ではあと三ヶ月は持つって話だったはずでは?




「容態が急変しました……”無能”と言われている貴方に二周間のうちに30億集める事が出来ますか!!」


「本当なら言いたくないんです……ですが、妹さんの事は諦めてください」




そうして主治医は妹の部屋から出ていった……30億ーーか。


俺は熱い妹のおでこに手を乗せながら宣言するーー




「安心しろ……絶対にお兄ちゃんが救ってみせるから!」




そうして俺は、ダンジョンを潰すことを更に深く決意するのであった。




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