偽ギャルDays⑧




吹奈視点



時間は遡り小百合に話しかけられた吹奈は昼食の時間を共にすることを断って教室を出た。 行く当てもないためぼんやりと廊下の窓から外を眺める。 心の中には何故かポッカリと穴が開いたような感じ。

その理由は自身でもハッキリと分かっていた。


―――・・・分かっているんだ。

―――小百合はあれを送っていないって。

―――そう信じたいけどどこかで全て小百合を信じられない自分もいるんだよ。

―――・・・いや、違うかな。

―――分かってはいても結局小百合は何もできない、あの二人には逆らえない。

―――でもそれはアタシが逆の立場だったとしても同じかもしれないから責められないや。


吹奈も葛藤していた。 廊下を行ったり来たり、外を眺めてみたりしても気分は晴れない。 その時小百合が教室を出て一人どこかへ行く姿を発見した。


―――・・・どこへ行くんだろう?


ただ先程冷たく当たったこともあり、それ以上はどうしようとも思わなかった。 謝った方がいいのかもしれない。 そんな風にも思うが結局辛い思いをしているのは自分なのだ。

こんな浮かない気分でも何故かお腹は空いてくる。 どうしようかと考えたところで、見たくない顔が近付いてきた。

茉耶と千尋は相変わらず不愉快な笑みを浮かべていて、先程湧いた食欲が急速に萎んでいった。


「ねぇ、吹奈ー」

「・・・」


逆らえば酷いことをされると分かっているため何も言わずに立ち止まる。


「吹奈、面白いものを見せてあげるよ」

「面白いもの?」

「うん。 こっちこっち」


そうして案内された場所はもう一つの棟の三階だった。 三階であるこの棟は三年生が使う特別教室がほとんどのため来ることはほぼない。


「・・・ここに何があるの?」


話し声や物音は何も聞こえないため不思議に思って聞くと茉耶が手招いた。


「ほら。 見下ろしてみなよ」


そう言って窓を開け下を指差した。 冷たい風が吹き込んでくる中恐る恐る近付いて見下ろしてみる。


「小百合・・・!?」


そこには彼氏である大志と小百合の姿があった。 大志は楽しそうに笑っていて小百合は恥ずかしそうに顔を赤らめている。


―――どういうこと・・・?

―――私の彼氏だと知っていて小百合は大志先輩と楽しそうに話してるの?


「どう、して・・・」

「見ての通りだって。 仲よさそうだねー、あの二人」

「・・・嘘よ。 これも全て貴女たちが仕組んだんでしょ!?」

「小百合はともかくとしてどうやって先輩にまで協力してもらうのさ? ウチらは先輩とは面識もないんだよ?」

「そうかもしれないけどッ・・・」

「信じたくないのも分かるけどね。 ・・・人は簡単に裏切っちゃうんだよ」


“裏切る” その言葉を聞いて先程送られてきたDMの内容を思い出した。


―――じゃああの言葉は小百合の本心だったの・・・!?


パッと見でも仲よさそうに話していてそれがとても演技とは思えない。 それにもし演技だったとしたら小百合と大志までもが二人に協力していることになるのだ。


「あーあ、行っちゃったよ。 ウチが追いかけようか?」

「もう少し様子を見てみたら? ウチはここで下の二人を見ているから数分経ったら吹奈を追いかけてよ」


二人の会話は聞こえていたが今はそれどころではなかった。 急いで教室へ戻り自分のノートを引き千切る。 涙で前は既に見えなくメイクもぐしゃぐしゃ。 クラスメイトからは痛い視線が向けられていた。


―――・・・分からない。

―――小百合を信じていいのか分からない。

―――・・・小百合を最後まで信用できないアタシも最低だ。


やることが終わるとソレをスカートのポケットに忍び込ませた。 もう一度別の棟の三階へと足を運ぶ。 千尋は相変わらず下を見ていて茉耶の姿は見当たらない。

気付かれないように適当に空き教室へ入った。 一年の教室から離れたのはあまり大事にしたくないからだ。 そして少しすると茉耶がドアを乱暴に開けてやってきた。


「やっと見つけたー。 探したよー? どこか遠くへ行ったのかと思いきやまた戻ってきちゃって。 やっぱり小百合たちのことが気になったの?」


そう言って徐々に近付いてくる。 だがいつもと違った様子の吹奈を茉耶は悟ったようで立ち止まった。


「・・・吹奈?」

「・・・アタシ、これから死のうと思って」

「は?」


吹奈は常にバッグに忍ばせていたカッターをポケットから取り出した。 それを見て茉耶は息を呑む。


「・・・アンタ、本気?」

「本気だよ。 茉耶もアタシに死んでほしかったんでしょ? 遠回しにそう言っていたよね」

「・・・よしなよ。 せめてウチの前では死なないで!!」


流石に吹奈が死ぬのはマズいと思ったのか震える声で引き止めようとする茉耶。 ただカッターの刃を向けられてはどうしようもできない。


「何それ。 アタシがアンタの目の前で死ぬのが本望なら今ここで死んであげるよ。 だから最後まで見届けて?」

「ッ・・・!」


吹奈はカッターを自分の首に当てゆっくりと切り裂いた。 ピッと赤い血が跳ね吹奈は崩れ落ちる。 その瞬間持っていたカッターを茉耶へ向かって投げ放った。



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