偽ギャルDays⑦




四限目が終わり昼休みとなった。 いつもであれば吹奈の予定を聞き、学食へ向かうか学校外へ買い出しへ行くかであるが今日はそのような気にならなかった。

息を殺しながら茉耶と千尋が教室から出ていくのを確認し、すり足で吹奈へ近付いていく。


「吹奈!!」

「・・・何?」


吹奈はチラリと小百合を見るとすぐにそっぽを向いてしまった。 明らかに機嫌が悪い。 普段であればお昼をどうするのか聞いてくるというのに。


「さっきのは本当にアタシじゃないの!! でも吹奈が嫌な思いをしちゃったのは確かだし、あの人たちにスマホを渡しちゃったアタシが全て悪いんだ・・・。 本当にごめん!!」


そう言うも証拠がないため信じてくれるとは限らない。 それでも深く頭を下げて謝ると吹奈が呆れるように言った。


「・・・いいよ、別に。 というかアタシから離れなよ」

「・・・どうしてそんなことを言うの?」

「アタシと一緒にいると小百合までもいじめられるよ?」

「ッ・・・」


吹奈の言葉に思わず教室内で二人の姿がないか確認してしまう。 身体もその言葉に反応し後退してしまった。 吹奈と一緒にいたいが確かにいじめられるのが怖い自分もいるのだ。


―――・・・アタシはあの二人の前ではいつも通り平然を装わないといけないんだ。

―――もう敵に回しちゃったけど、正直これ以上敵対すると後が怖い。


「・・・あぁ、違ったね。 小百合と一緒にいるとアタシが倍いじめられるんだっけ。 とにかくお互いのためにならないから近付かないでくれる?」

「吹奈ッ・・・」


そう言うと吹奈はバッグを持って立ち上がり離れていってしまった。 バッグを持っていったのは二人に何かされるのを予防してだろう。 ただそれが小百合をも拒絶したように感じ落ち込んでしまう。

我に返り引き止めようとするが入れ替わるように茉耶と千尋が来たためどうしようもなかった。


「あれー? 吹奈と何を話していたの?」

「・・・」

「まぁいいや。 小百合、伝言だよ」

「・・・伝言?」

「そう。 裏庭へ来てほしいって」

「誰から?」

「それは行ってからのお楽しみ」


裏庭へ行ったら自分はいじめられるのだろうか。 目の前には茉耶と千尋がいるため直接何かされるということはないのかもしれない。

ただターゲットが自分へ変わってしまったような気がして心臓が酷く鳴っている。


「そんなに怪しまないでよ。 今も待っているかもしれないんだから早く行きなって!」


確かに伝言が本当で待ち人がいるのなら待たせるのは悪い。 ただ二人のニヤニヤと笑う顔を見てはいい予感など持てるわけがない。

それでも言うことを聞かなければどんな酷い目に遭わされるのか分からないのだ。 疑心は拭い切れなかったが渋々言われた通り昇降口から裏庭を目指した。


「本当に誰かいる・・・?」


向かってみると確かにそこには人がいた。 女子ではなく男子だと姿を見て分かった。 近付くにつれハッキリと顔が見え小百合は驚くことになる。


「大志先輩・・・ッ!?」

「おぉ、小百合か」


―――部活の大会を機に黒髪にしたんだっけ。

―――遠くからじゃ全く分からなかった・・・。


「久しぶりだな」

「・・・そう、ですね」

「前から変わってねぇな。 元気にしてるか?」

「まぁ・・・」


―――今更先輩がアタシに何の用だろう。

―――それにどうしてあの二人が先輩が待っていることを伝えに来たの?


そう考えると嫌な予感ばかりしてくる。 そもそも吹奈と先輩が付き合ったことを知ってから今まで避けるようにしてきたというのに。


―――二人は先輩と知り合いじゃないはずだけど。


先程の意地の悪そうな笑みが嫌な予感を怖いくらいに溢れさせる。


「そう言えば小百合ってさ。 俺のことが好きだっただろ?」

「・・・え!?」

「そんなに驚くことか? あんなに話しかけられたら流石に馬鹿でも分かるって」


そう言って笑う大志。 気付かれていたと思うと嬉しさと同時に恥ずかしさも込み上がってきた。


「・・・でも先輩はアタシじゃなくて他の子が好きだったんですよね」

「あぁ。 小百合には悪かったけど」

「大丈夫です。 他に好きな人がいてアタシの誘いを断っていたのなら納得できたんで」

「そうか。 彼女とは今でも仲よくやってんだ。 アイツはとにかく可愛くて優しくてさー」


そしてここから惚気話が始まった。 正直いい気分にはならないが同時に疑問も思い浮かぶ。


―――・・・どういうこと?

―――惚気話をするためにわざわざアタシを呼んだの?

―――アタシが先輩のことが好きだったと知っておきながら?


もしかしたらあの二人に何か吹き込まれたのかもしれない。 嫌な気持ちになった小百合は強気になって言った。


「あの、それでアタシに何の用ですか?」

「用? 用があるのは小百合の方だろ?」

「え、どうしてアタシ?」

「俺はここへ呼び出されたから来たんだよ。 待っていたら小百合が来たから小百合が俺を呼んだのかと思ったんだけど?」


意見の食い違いに嫌な予感がした。


「それって誰に言われたんですか!?」

「誰って・・・。 小百合よりももっとチャラくて派手な女だったけど?」


すぐに千尋だと分かった。 小百合が茉耶にスマートフォンを奪われた時千尋はいなかった。 その時千尋は既に大志と交渉していたのだ。 それが分かると脳裏には吹奈の姿が過った。


「吹奈・・・ッ!!」



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