偽ギャルDays⑨




小百合視点



「吹奈? 吹奈がどうしたんだ?」


大志は突然彼女の名を出され困惑していた。 小百合は今の時間が茉耶によって仕組まれたものだと分かり大志に詰め寄った。 もちろん小百合だって馬鹿ではない。

薄々何かあるとは勘付いていたが、お互いに呼び出されているとは思ってもみなかった。


「先輩、吹奈から何か聞いていませんか!?」

「何か? いや、何も・・・」

「吹奈は今どこに・・・ッ」

「キャーッ!!」


その時甲高い声が聞こえた。 校舎の上の方だ。


「何だ、今の悲鳴!?」

「・・・今のは茉耶の声?」


悲鳴を聞いたことはなかったが、何となくそう思えた。 そして、その近くに吹奈がいることを何となく確信していた。


―――吹奈の声なら分かるけどどうして茉耶が?


「・・・行ってみよう」


大志が率先して向かってくれた。 二人は揃って昇降口へ。 悲鳴はかなり大きく校内を混乱に陥れていた。


「真上から悲鳴が聞こえたよな?」

「はい。 三階辺りだったと思います」


人ごみをかき分けながら三階へ向かう。 すると先生たちが異様に集まっている空き教室を発見した。


「担架を持ってきました!」

「すぐにこっちへ!!」


大人たちが慌ただしくしている。


「誰か怪我でもしたのか?」


そう言う大志と一緒に近付いていく。 人を縫いながら様子を見てみると担架の上で横たわっている吹奈の姿を発見した。

首の辺りから出血しているのかあてがわれている布のようなものが赤く染まっている。 呼吸は小さくただただ早い。 顔色も明らかに悪く、冗談や悪ふざけで起きた出来事とはとても思えない。


「吹奈!!」

「うわ、マジかよ・・・」


そしてもう一つ気になったのが何故か茉耶が先生に捕らえられているのだ。


―――もしかして茉耶が・・・?

―――でもあまり血が床に付いていない・・・。

―――机の位置もそのままだし争った形跡はない・・・?


「ウチじゃない!! ウチは何もやってない!!」


茉耶が泣き喚いている。 押さえ付けられた手で血の付いたカッターナイフを振り回しながら。


「ウチの前で勝手に死んだの!! ウチは止めたんだよ!? それでも死んだコイツが悪いんだから!!」

「ならどうして君が血の付いたカッターを持っているんだ!!」


その言葉を聞き我に返るようカッターナイフを投げ捨てた。


「だから倒れる前にこっちへ向かって投げてきたんだって!! 本当だから!! 突然のことだしうっかり受け止めちゃっただけでしょ!?」

「返り血まで浴びてそんな雑な言い訳を信じることができるわけないだろ!!」

「ぐッ・・・」


流石の茉耶も男性教師に怒鳴られては言葉を詰まらせていた。


―――どういうこと・・・?


吹奈を担架に乗せた一人の先生が顔をしかめる。


「・・・この生徒、手首に痣があるな」

「リストカットでもしていたようですね」


―――リスカ・・・!?

―――嘘、今までそんなに一人で苦しんでいたの?

―――絶対にアタシたちのせいだ・・・。

―――ここまで吹奈を追い込んでいたんだ。

―――いつもブレスレットをたくさん付けているから気付くことができなかった・・・。


心にポッカリと穴ができているが何故か涙は出なかった。 そしていつの間にか大志は隣にいなかった。 振り向くと大志は外を眺めていた。


「大志先輩・・・? 大丈夫ですか?」


自分も辛いが恋人でもある大志も辛いだろう。 寄り添うように隣につくと大志はこう言った。


「吹奈ってああいう子だったんだな」

「え・・・?」

「リスカとか自傷するような子。 ああいう子苦手なんだよなー」

「・・・」

「昔中学で付き合っていた子がさ、まさにそれで。 どう付き合っていけばいいのか分からないし、仕舞いには心中を求めてきたりして別れたんだ。 俺と吹奈ももう終わりだな」

「・・・」

「・・・あ、そうだ。 小百合って俺のこと好きだったよな? どうする? この際だし俺と付き合っちゃう?」


自傷するような人との付き合いを避ける大志の言い分も分からないでもなかった。 しかし、今現在彼女の身が危ないというのにそのようなことを言う神経が理解できない。


「・・・吹奈の安否はまだ分からないのにそんなことを言うなんて不謹慎です」

「そりゃあそうだな」

「・・・ごめんなさい。 先輩とは付き合えません」

「分かってる。 ・・・俺、吹奈のところへ行ってくるよ」


切なそうに外を向き大志は駆け足で去っていった。


―――・・・先輩が今そう言ってきたのは自分とアタシの悲しさを紛らわすためだったのかもしれない。

―――だけど、それでも、元気付けるならもっと別のことを言ってほしかった。


無理して明るく接してくれる大志が心苦しく思えた。 だがそれでも言ってもいいことと言っては駄目なこともある。 小百合の心から大志が好きだったという気持ちは消え去っていった。

その時角から覗く千尋の姿が見えた。


「あ・・・!」


様子を見に来ただけなのか小百合と目が合ったことで逃げるように走り去っていく。


―――逃げるつもりだ・・・!


追いかけようと一歩踏み出す。 だが怖くてそれ以上動くことはできなかった。



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