偽ギャルDays⑤
一限目を受ける間もずっと憂鬱な気分は続いていた。 よかれと思ってしたことが裏目。 三人と一体どのような顔をして接すればいいのかよく分からなくなってしまった。
「小百合ー。 ちょっとウチらトイレ行ってくんね」
「あ、うん」
茉耶と千尋が教室を出ていくのを自席で見送った。
廊下を横に並びながら二人は歩く。 そして先程のことについて二人で話し出すのだ。
「本当に吹奈ってば目障り。 どうにかならないのかねー」
「それより次チクられたらどうするのかを考えようよ」
「アイツだけ男がいるし腹立つよねー。 何か適当に噂でも広めて別れさせてやろうかなー」
笑い合いながらトイレへ到着すると気になる会話が聞こえてきた。
「告白しちゃいなよ!」
「無理だって! だって大志先輩には彼女がいるんだもん・・・」
「自分の想いを伝えないまま終わっちゃってもいいの?」
「そうだけど・・・」
大志先輩というのは吹奈の彼氏のことだとすぐに分かった。 そしてその生徒を見ると男子バスケットのマネージャーをしている女子だった。 何か吹奈を貶めるネタでも拾えないかと堂々と盗み聞きした。
「大志先輩の彼女って私たちと同じ一年でしょ?」
「そうだよ。 5組の吹奈ちゃん」
「吹奈ちゃんと小百合ちゃんって仲よしじゃなかったっけ?」
どうしてここで小百合の名が出てくるのか分からなかったが次の会話で納得がいった。
「ずっと前から仲がいいし今でも仲がいいよ。 不思議だよね、どうしてあんなに平然としていられるんだろう? 小百合ちゃんも先輩のことが好きだったのに」
その言葉に茉耶と千尋は顔を見合わせた。 小百合が大志を好きだったなんてことは初めて聞いたためだ。
「毎日小百合ちゃんって部活に顔を出していたんでしょ? それなのに恋が叶わなかったって悲しいよね。 しかも取られたのは親友、複雑過ぎ。
私なら絶交とは言わなくても、以前の関係を保つことなんて到底できないよ」
そこで二人はトイレへようやく顔を出した。
「ねぇ、その話詳しく聞かせて?」
一方小百合は教室で静かに待っていた。 というよりも、どうすることもできず机でウダウダしていることしかできなかった。
今は二人がいないため吹奈のもとへ駆け寄りたいが、万が一その光景を見られると何を言われるのか分からない。 それに先程吹奈に突き放されたこともある。
「ねぇ、小百合」
そうこうしているうちに二人が帰ってくる。 ただ先程とはどこか様子が違い、何か不愉快な笑みを浮かべていた。
こういった時は大抵嫌なことが起こることを小百合はこれまでの付き合いでよく分かっている。
「おかえり。 どうしたの?」
「ぶっちゃけさぁ、小百合って吹奈のことどう思う?」
「・・・え、どうしたの急に?」
「吹奈が彼氏とべったりなのを見て正直嫌じゃない?」
今までそのようなことを言われたことはなかったのに、突然聞かれて首を傾げていると茉耶が言った。
「小百合はさ、大志先輩のことが好きだったんでしょ?」
「・・・え!? そ、そんな、どこでッ」
「「分かりやすー!」」
慌てて口を塞ぐ。 チラリと吹奈を見るとこちらを気にしている様子はなくスマートフォンをいじっていた。
「ねぇ、それどこからの情報? お願い、吹奈にはそのことを言わないで」
そう頼むと二人は頷いてみせた。 しかし、先程よりも更に不愉快な笑みを浮かべている。
「うん、分かってる分かってる。 でも小百合にも協力してもらおうかなーって」
「きょ、協力?」
「小百合も本当は悔しいんでしょ? 大志先輩を吹奈に取られて」
「・・・別にもう、そんな前のこと・・・」
「強がらなくてもいいって。 小百合のためにもウチらがスカッとやっちゃうから!」
「そうそう。 これは小百合のためだからね?」
―――・・・アタシのためとか言って嘘だ。
―――アタシのためっていうのを言い訳に吹奈にまた何かをするつもりなんだ。
「じゃあまた作戦を考えようねー」
話はチャイムによって強制終了させられた。 モヤモヤとした気持ちのまま授業を受け二限目が終わる。 茉耶と千尋を見ると丁度教室を出ていくところだった。
―――・・・よかった、特に何も言われなかった。
相変わらず吹奈はスマートフォンをいじっている。 声をかけたくてもかけてほしくないオーラが漂っていた。
―――あの二人は吹奈にまた悪さをするに違いない。
―――される前に吹奈に忠告しておかないと。
小百合はスマートフォンでツウィッターにログインし吹奈へのDMを開く。
―――・・・でもどう書けばいいんだろう。
また何かを伝えたら先程みたいにお節介だと思われてしまうのではないか。 そう考えるとスマートフォンを持つ手が動かない。
―――またあの二人が何かを企んでいるから気を付けて・・・。
―――でもそんな直接的に言ってもいいのかな・・・?
打っては消し打っては消しの繰り返し。 忠告したらまた先程のように言われるかもしれないと思うと文章が完成してもそのまま素直に送れない。
だからといって何もせずこのままとはいかず、もう一度文章を考え書き直す。 もう一度先生に、そう頭に浮かんだが先程の様子では効果がないどころか逆効果になりかねない。
チラチラと吹奈へ視線を送ってはみるものの気付いてくれる様子もない。 もしかしたら意図的に小百合へ視線を向けないようにしているのかもしれない。
そのようなことを考えていたためか、声をかけられ大きく心臓が跳ねることになる。
「小百合?」
「ッ!」
ただその驚きは次第に驚愕へと変わった。 振り返るとそこには茉耶が背後に立っていたのだから。 当然、小百合の背後から見下ろす形となればいじっていたスマートフォンが完全に見えてしまう。
慌ててスマートフォンを伏せるももう遅かった。
「ねぇ、それ誰に送ろうとしていたの?」
優しい音色だが声色はとても怖かった。
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