偽ギャルDays④




手洗いで吹奈とのやり取りを終え、少し心が落ち着いた。 本当は彼女が最も傷付いているということは分かっている。

こんなやり取りも彼女のためというよりも、自分自身の罪悪感を和らげるためだと理解もしている。 これではどちらが助けられているのか分からない。 そして休み時間の終了を知らせる予鈴が耳に届く。


―――・・・もう戻らなきゃ。


足取りは重いがこのままずっとこうしているわけにもいかない。 教室へ戻ろうとした時、目の前に担任の後ろ姿があった。


―――・・・そうだ。

―――この状況、先生なら何とかしてくれるかもしれない!


いつもは茉耶と千尋が隣にいて単独行動ができない。 だが今は自分一人だけ。 チャンスだと思い勇気を出して先生を呼び止めた。


「先生!」

「ん?」


ギャルではあるがこの学校では特別に珍しいわけではない。 とはいえ、真面目にしている生徒に比べれば自身の印象は悪いだろう。

それは十分承知しているが、担任教師はまだ30歳程と若く理解があることも知っている。


「あの・・・」

「どうしたんだ?」


吹奈のことを話したい。 だが脳内に茉耶と千尋のことが過り言葉が詰まってしまった。


―――吹奈がこれ以上酷い目に遭う前にアタシが何とかしなきゃ・・・!


「先生! ・・・吹奈がいじめられています」

「いじめ? 誰に?」

「・・・茉耶と千尋です」

「それは本当かぁ?」


普段小百合も茉耶と千尋と並んで反抗的な態度をとっているからか素直に信じてくれない。


―――アタシが反抗的になったのもあの二人のせいだけどそれを証明するものは何もない・・・。

―――だけどアタシの証言から吹奈を救うことができるかもしれない。

―――それでも駄目なら動画を見せれば!


「詳しく話します! 最初は陰口だけだったんですけど」

「分かった分かった。 あとで俺から二人には注意しておくから」

「ちょっと、先生!!」

「今予鈴が鳴ったのが聞こえなかったのか? もうホームルームが始まるから行くぞー」


先生はスタスタと教室へ行ってしまう。 具体的なことは何も話すことができないまま自分も仕方なく教室へと戻った。


―――・・・まぁ、先生に伝えられただけマシか。


何もしないよりは一歩前進。 そう考えこの後は普通に朝のホームルームを受ける。 それが終わると早速先生が茉耶と千尋を指名した。


「ちょっと話がある。 廊下へ来い」

「え、どうしてウチらだけ?」

「さぁ?」


不機嫌そうな顔をする二人はイライラしながらも廊下へと出ていった。 それを追うように小百合も教室の廊下側へと移動し聞き耳を立てた。


「お前たち、加藤をいじめているんだって?」

「ッ、はぁ!? 誰が言ったんだよ、そんなこと!!」

「誰だっていいだろう」

「もしかして吹ッ・・・」


吹奈が直接チクった。 そう考えた茉耶は言おうとするが慌てて千尋が口を塞いだ。 代わりに千尋が言う。


「ウチらは何もしていません!!」

「まぁ、一応注意はしたからな? 今後は気を付けるように」


それだけを言うと先生は去っていく。


「どうして言葉を遮ったんだよ!」

「先公にはあまり歯向かわない方がいい。 面倒になるから。 とりあえず吹奈を呼び出そう」


二人は教室へ戻ろうとする。


「小百合? そんなところでどうしたの?」


呼ばれて振り向くとそこには吹奈がいた。


「あ、ううん。 何でも」

「うん?」

「吹奈ー」


そして茉耶たちがやってきた。


「吹奈、ちょっと来なよ」

「・・・ん、何?」


吹奈はチラリと小百合を見ると素直に二人に付いていった。


―――・・・マズい。


そう思った小百合もこっそりと三人の後を追った。 人がいない階段まで行くと二人は吹奈に詰め寄る。 その様子を小百合はスマートフォンで撮影することにした。


「ねぇ、アンタでしょ? ウチらのことをチクったの」

「・・・え? 何のこと?」

「しらばっくれないで。 アンタ以外に誰がいるっていうの?」

「あー・・・」


吹奈は何かを悟ったようだ。


「・・・チクったって別に事実を伝えただけだけど」

「アンタがチクったせいでウチらが怒られたじゃん! 助けを求めて自分が本当に助かるとでも思った?」


茉耶は乱暴に吹奈の髪を掴む。


「痛ッ・・・」

「ちゃんと自分の立場を分かってんのかよ!!」


その光景を小百合は一心不乱に撮影していた。 二人の迫力は凄まじく小百合のところまで伝わってくる。


―――どうしよう・・・!

―――アタシのせいで余計吹奈が!


そう思うと胸が痛くなった。 話が終わったのか二人の声が近付いてくる。


「もう誰にもチクんなよ。 そして逃げんなッ!!」


慌てて小百合はスマートフォンをしまい空き教室へ入って身を潜める。 二人は愚痴を漏らしながら廊下を通っていった。


―――・・・謝らなきゃ。


急いでスマートフォンを取り出しツウィッターを開く。 その時丁度通知が届いた。


―――吹奈!!


DMを慌てて開く。


“もしかして小百合? 先生にアタシのことを言ったの”


その言葉に即返信する。


“うん。 どうしても吹奈を助けたくて・・・”


送るとすぐに返事が来た。


“やっぱりね。 でも先生に言うのは有難迷惑だよ。 これ以上は変に行動しないで。 よかれと思ってした小百合の行動は全てアタシに跳ね返ってくるかもしれないから”

“・・・ごめん”

“いいよ。 本当はアタシを思っての行動は凄く嬉しいからね。 ・・・こちらこそごめんね”


その文を見てスマートフォンをしまった。


―――・・・もうこれからは見て見ぬフリをしないといけないんだ。

―――もしアタシが直接吹奈を庇いにいっても、知らないところで吹奈はよりいじめられることになるんだろうな。


本心は助けたいが小百合にできることは何もない。 初めて勇気を出した行動だったのにそれを吹奈に否定された。 吹奈自らに突き放されては小百合から動くことを完全に止められたようなものだ。



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