第63話 出会い、再び その3

「おい! ここから出せよ! 訊きたいことがあるなら、さっさと訊けよ!」


 鉄格子に手をかけて壊そうとしてみるが、さすがに無理だ。

 何度も鍵を蹴ってみるが、とてもじゃないが壊すこともできそうにない。

 しばらく暴れてみたものの、なんだか疲れてしまって僕は座り込んでしまった。


 連行されるときには「じっくりと調べてやる」なんて言っていたけど、何もしてこないことからすると、兵士たちも街の警護や夜回りなどで余裕がないんだろう。そういえば、座長は「割れたガイコツ」を身に着けていていた連中のことを、以前に『煉獄からの解放者たち』って呼んでいたっけ。何者なんだ。どうせ、ろくでもないことをやっているにきまっているんだ。


 閉じ込められた独房の中では、いろいろと考えが巡ってくる。


 でも、どうしよう。いきなりいなくなって、メンバーには心配をかけてしまう。せめて連絡だけでもって思うけど、ここで放置されてたんじゃ、それもできないし。


 ため息をついてうつむいていると、人の声が聞こえてきた。


「姫様! お戻りください!」


 どうやら、兵士が声を上げているようだ。なんだか、困っているみたいだな。


「姫様! やめてください! ここは姫様が来るようなところではありません!」


 姫様? まさか、本物? いや、ないない。でも、兵士の焦ったような声は本物なのかもしれない。でも、王族の気まぐれに付き合わなきゃいけないなんて、兵士も大変だな。


「きゃ!」

「あっ! 姫様!」


 何かがドタバタと階段から何かが転げ落ちる音がする。


「痛てて……」

「大丈夫ですか、姫様!」


 まさか、姫様が転げ落ちた? 大丈夫なのかよ。この国の未来は大変だな。


「ほら、暗くて足元も危険です。ここは姫様の来る場所ではないのです」

「大丈夫だ。心配せずともよい。昨日から落っこちることが連続しているから、ちょっと気になるくらいなのだ。それより、『冥界からの放浪者』の関係者が捕らえられたと聞いている。そやつに会わせろ」


 へぇ、そんなヤツが捕まってるんだ。だったら、関係者じゃなくて、その殺人鬼の方も早く捕まえてほしいよな。


「ただ『冥界からの放浪者』を探しているというだけで、関係者と決まったわけではありません。そういうことは、これから取り調べることです」


 なんだ、お騒がせなヤツだな。旅行者が多くて大変なんだぞ。兵士たちの迷惑も考えろよ。


「なら、ちょうどよいではないか。わらわが訊いてやろうではないか」


 王族だから何でもできると思ってる優越感。いるんだよね、こういうの。


「いえ、そのようなこと、姫様がなされることではございません。どんな野蛮な者なのかもわからないのですから」


 そうそう。激烈に野蛮なヤツだぞ。だって、殺人鬼の関係者なんだろ、そいつ。


「いいから、放せ。そんなに心配ならば、そなたが警護しておればよいではないか」


 また、無理言って。王族って嫌だね。周りの迷惑を考えないなんて。兵士の皆さんだって忙しいんだから、もう、放置すればいいんだよ。


「おい、お前、顔を上げよ」


 足音が僕の近くで止まった。


「お前のことだ。顔を上げよ」


 バンバンと、僕を閉じ込めている鉄格子をたたく音がした。


 なんだ、兵士の方に迷惑をかけたお騒がせな、激烈に野蛮な、殺人鬼の関係者とは僕のことか。確かに、少しは勘違いされることに身に覚えがある。でも、王族の気まぐれのお相手とか、兵士じゃないけど、面倒なことになったな。って、身近に面倒な王族がいたような気もするけど。


 そんなことを考えながら、僕は顔を上げる。


「「あっ!」」


 僕は少女と目が合った瞬間、お互いに声を上げる。

 あの瞬間に間近でみたから間違いない。


 目の前の少女は、昨日の夜に僕が口づけを交わした少女だった。

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