第62話 出会い、再び その2

 結局、目的もなく、また街を歩き始めた。


 仕方なく周囲の人物を観察してみたけど、やっぱり何も得られるものはない。そもそも、見た目だけでわかるなら、警備をしている軍隊がすでに見つけ出してしまうはずだ。それに、レナさんやイザベラ姉さんのような人ならともかく、僕みたいな素人が見て回ったところで見つけ出せるはずがない。もう、無駄なことは止めだ。


 結局、普通の観光客として歩き始めた。


 繁華街は人通りが多く、本当ににぎやかだ。新国王の就任式のためのセレモニー期間で旅行者が多いらしいから、普段はもっと落ち着いているのかもしれない。だけど、この人たちは戦乱時代、どこにいたんだろう。当時はこんなに賑わっていたはずはないんだ。家の中で隠れていたのか、軍隊の一員として戦っていたのか――。どちらにせよ、あんまり楽しいことじゃないよね。だったら、こうして買い物をしている方が、絶対に楽しいはず。ようやく、戦乱時代が終わったんだ。僕だって――。


 身体がビクッと反応した。


『割れたガイコツ』


 ふと、視界に揺れるものが入った。


 振り返るが、そこは人混み。

 視界に入るのは無数の人、人、人。

 誰のものだったのかは分からない。

 人をかき分けながら、気が付けば、僕は動き始めたていた。


 あいつら、ここにもいるのかよ。前のメンヒ公国では、コイツらが余計なことをしてくれたために、面倒に巻き込まれたんだ。関係ないかもしれないが、あいつらならやりかねない。確か、首からぶら下げていたはずだ。どこだ、どこに行った!


 さすがに黒いフードを目深にかぶったヤツはいない。旅行客が多いせいで、少々、町の人とは雰囲気の違う人がいても、全く違和感がない。というより、繁華街では旅行者が多くて町の人の方が少数派だ。完全に街に溶け込んでいて、雰囲気など漠然とした違和感だけでは判断できない。


 物を持っていて胸元が隠れている者、服装で分かりにくい者――。

 僕は周囲の人の胸元を覗き込むが、何もない。


 だからと言って、ここで逃すわけにはいかない。


「おい、なんだよ!」

「きゃ、何をするんですか!」

「すいません――、いや、何でもありません――、ちょっと探したいものがあるだけなんです。ごめんなさい――、えっと――」


 人混みをかき分けながら、僕は確認していく。

 少し騒ぎになってきたが、ここで止めるわけにもいかない。


「おい、お前! 何してやがる! スリか!」

「お金が欲しいんじゃない。『冥界からの放浪者』を探していただけだ」

「なんだ、その態度! 逃がさねぇぞ!」


 僕は旅行客の男に腕をつかまれた。

 今はスリの疑いを晴らしている時間はないのに。


「離せよ、何も取ってないだろ」

「オマエ、怪しいんだよ! 何たくらんでんだ!」


 面倒なのに捕まったな。

 だんだんと騒ぎも大きくなってきた。


 このままじゃマズい。こんなことをしている間に、逃げられてしまうかもしれないのに。


 僕は掴まれている手を強く引いて男の身体のバランスを崩してやると、足をかけて倒す。そして、力の弱まった手を振りほどいた。そのあと、さらに捜索を始める。


「そこまでだ!」


 そう言われて周囲を見ると、既に僕の周りを兵士が取り囲んでいた。


 リーダー格の兵士が「やれ!」と指示を送る。

 僕は後ろから倒され、兵士たちに地面に押さえつけられてしまった。

 捕縛に慣れた兵士たちのようで、両腕をがっちり固められ、身動きが取れない。


「僕は何もしてないだろ!」

「何もしてないかどうかは、じっくりと調べてやる」


 こんなところで、捕まるわけにいかないのに。

 抵抗するが、二人がかりで押さえつけられては分が悪い。


「お前、『冥界からの放浪者』と関係があるのか? さっき、そんな言葉が聞こえてきたが」

「昨日、ちょっとひどい目にあったんだよ。それで探してるだけだ」

「まさか仲間なんてことはないんだろうな」

「そんな訳あるかよ。だったら、こんな目立つようなことするかよ」

「それもそうか。だが、騒ぎを起こしたヤツを、このまま返すわけにもいかないな。連れていけ!」


 リーダー格の兵士が命じる。


「ちょっと待てって! 今がチャンスかもしれないのに!」


 ジタバタしてみるが、やっぱりダメだった。

 僕は繁華街から兵士に連れ出されてしまった。

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