第6節 出会い、再び
第61話 出会い、再び その1
遅めの冷たい昼食を終え、僕たちはリアさんの食堂を出た。
不機嫌に飯を食らう座長に圧倒されながらも、今後についての話し合いがなされ、夜回りをすることが決まった。話し合いと言っても、大した議論があったわけではない。要するに、そうする以外に『冥界からの放浪者』と接触する方法が思いつかなかったのだ。そうすると、夜までの間、また時間が空いてしまう。朝と同じように、昼食後は自由時間となり、解散となった。もっとも、正確にはミアに対するイライラが収まらなかった座長が勝手に帰ってしまったため、事実上、リアさんの食堂前で解散となっただけだ。
メンバーはそれぞれで過ごすことになったが、僕は馬小屋に帰っても気分が乗らない。そんなわけで、この初めての街を見て回ることにし、一人で賑やかな方へと歩いて行くことにした。自由時間といっても、のんきに観光を楽しむ気分でもないし、行く当てもない。いや、やることは決まっている。殺人鬼を探すことだ。だけど、仮面で顔もわからない犯人を、出没することがないと思われる昼間に探すという、見つかるはずもない不可能な捜索をするってことになる。
じっと、すれ違う人を見てみる。
大きな荷物を持った若い男――。
荷物は重そうで、何か仕事に使うものだろうか。金属が入っているなら、剣なのかもしれない。
食料の入った袋を下げた中年の女性――。
家族で食べるご飯の買い物だろうか。犯人は男だ。だけれども、女性の仲間がいないとも限らない。部屋に戻れば犯人がいて、犯人のための食料を準備しているのだろうか。いや、昼に動くなら、食べ物で偽装し、袋の奥には短剣が入っているということもあるかもしれない。
楽しそうに話す二人組――。
どこかの民族衣装だろうか。服装や肌の色の状況から、オルカリアの住民ではないだろう。ということは、旅行者ということかな。リアさんの話では、普段、外国人は警戒されてしまうらしい。でも、さすがに今は旅行者がこれほど多いから、住民の人の目が届かない人がいても不思議ではない。少なくとも、就任式の直前の、この期間中なら、最も怪しまれずに街を見て回れるのかもしれない。
疑いだせば、どの人物も怪しくなってしまう。
だけど、ほとんどの人は殺人鬼とは何の関係もない人たちのはずだ。
武器を持った兵士も、繁華街の道のわきに立っている。鋭い目線を周囲に送っているところを見ると、休んでいるというわけはなく、警備のために立っているのだろう。これだけ人が多いとケンカなどもあるのだろうけど、やはり殺人鬼のこともあるんだろうな。これだけ兵士が目を光らせているなら、僕に何かできるという方が無理ってことだろう。
結局、このままでは何の役にも立たない。
――レナさんならどうするだろうか。
そんなことを、ふと考えてみる。
そういえば、前のメンヒ公国では露店の店主に情報を聞き出していたような。
周囲を見渡して、僕は赤い果物が売られている露店を見つけた。
よし、やってみるか。
「おじさん。これ、もらうよ」
レナさんがやっていたことを思い出し、見よう見まねで僕は果物を手にすると、コインを指で弾いて店主に渡す。それを相手は受け取ってくれた。
よし。
「…………」
あれ、レナさんの時は愛想よく返事が返ってきたように思ったけど。
「ボウズ、これじゃ足りない」
「あ、そうなの? じゃ、これならいいかな?」
僕は追加でお金を払う。だが、店主は不愛想だ。
えっと、これでも足りないのかな?
「あの……」
今度は店主が頷く。
どうやら、料金は足りたみたいだ。
でも、相変わらず、不愛想な表情なんだが……。
「え、えっと……、そうだ。最近、怪しい人物を見なかったかな?」
そんなことを言いながら、僕は手に取った果物をかじってみる。
「うわっ! ぺっ!」
渋くて吐き出してしまった。
「そいつは、干して渋みを抜いてやるんだ。すぐに食うヤツは、ちょっとおかしい」
やや不愛想な返事がある。
「あ、そうなの? っていうか、喋れるんだね」
でも、客に対して『おかしい』って言い方はないよね。
「……」
だが、また店主は黙ってしまう。
ダメだ。僕では手に負えない。
「えっと、じゃ、ありがとう……」
早々に撤退することにした。
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