第59話 最悪の目覚め その3

 座長とメンバー全員で昼ご飯を兼ねて、リアさんの店に集まった。

 店内は昼の繁忙期を過ぎ、客はいるものの、厨房には余裕が感じられる。

 そんな店内で僕たちを見つけると、リアさんは駆け寄ってくれた。


「昨日はありがとうね。店では威勢のいいこと言っちゃったものの、私じゃ、どうにもならなくって」

「いえ、無事で何よりですわ。もとはと言えば、わたくしたちを宿となる家に案内してくれる途中でのこと。むしろ、不審者が出ることがわかっていながら不十分な体制で案内を依頼したわたくしどもの落ち度でございます。誠に申し訳ございません」


 座長が頭を下げる。


「そんなに気にしないで。私はこうして元気でいるんだから。それより、食べていってくれるんでしょ?」

「はい、もちろんですわ」


 リアさんは嬉しそうに僕たちをテーブルに案内する。

 そして、注文を取って戻っていった。


「なんか、元気そうでよかったですね」

「そうですわね。わたくしも一安心――、って、いや、あの――」


 僕の言葉に、一瞬、顔をほころばせたものの、座長はワタワタした後に急に不機嫌な表情を作って横を向いてしまった。


 なんていうか、僕のことを非難するのはいいんだけど、リアさんのことなら普通に言葉を交わしてくれてもいいと思うだけどな。


 僕は苦笑いで頬をかく。

 でも、今の態度から、座長が僕を嫌いになった訳じゃないのは何となく分かった気がする。


「おいおい、座長に嫌われて、ニヤニヤするんじゃないよ。それともそういう趣味なのか? 心配しなくたって、クリスは座長のお気に入りだって」


 イザベラ姉さんが僕を茶化してくる。


「そういうんじゃ、ありません!」

「そのようなことは、ありませんわ!」


 座長と言葉がかぶり、僕たちは顔を見合わせ、そして、目線をそらせた。


「二人とも赤い顔するじゃないよ。――なんていうか、分かりやすいな」


 赤くなんか――。

 イザベラ姉さんのおかげで、変に意識しちゃうじゃないですか。


 そんな僕たちを見て、メンバーたちは肩を震わせて笑い声をかみ殺している。


「ねぇ、お兄ちゃんが座長のお気に入りってどういうこと? 好きってこと?」


 クレアは隣に座るレナさんに尋ねると、座長の方が慌てだした。


「そ、そのような――」

「おい、クレア。何てこと訊くんだ」


 僕も座長の言葉をさえぎり、急いでクレアを止めにかかる。

 座長と僕に質問を止められて、仕方なく、クレアがレナさんを見る。


「それは……、直接、座長に訊いた方がいいじゃないかな?」


 クレアに見つめられたレナさんが答えにくそうに言う。


「だから、そんなこと訊いちゃダメだって」


 さらに僕に言われて、クレアは座長をじっと見つめる。


「な、なんですの。わたくしは、その……」


 座長は回答に困り果て、さらに顔を赤くしていった。


 訊かずに見つめ続けて自白を引き出そうとする。

 なかなかの高騰テクニックを使うんだな。


 クレアを見ながら、そんなことを思った。


「はい、ご注文の料理ですよ!」


 救世主登場。


 リアさんが、注文した食事を持ってくる。

 ちょっとした緊張感から解放され、テーブルの上には、おいしそうな料理が並んでいった。


 リアさん、ナイスです。座長に爆発でもされたら、どうなっていたか。


 僕は胸をなでおろした。


「あら、どうしたの? なんか問題あった?」


 ニコニコしてリアさんがメンバーを見る。

 メンバーはどう答えていいのか、みんな苦笑い。


「いえ、何でもありませんの。無粋な下衆どもの勘繰りがあったようでしたが、どうやら気のせいですわ」


 そんな言葉にリアさんは首をかしげるが、「そのようなことより――」と座長に促されて席についた。


「昨日の仮面の男、『冥界からの放浪者』について教えていただけませんか?」

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