第4節 襲撃!
第55話 襲撃! その1
座長が曲がった道に入ると、人通りが完全になくなり、さらに薄暗い。
道の奥では誰かが拳を打ち込むような音がする。
さらに近づくと、ミアが飛ばされてきた。
「ミアッ! 大丈夫?」
「――うん。でも、コイツ、手ごわい」
口元の血を、ミアは手の甲で拭う。
ミアが飛ばされてきた方向を見ると、そこには一人の男が立っていた。
その男の筋肉質だが細い体躯は、ミアをここまで殴り飛ばすほどの怪力があるとは思えない。そのたたずまいは武闘派にしては、凛として気品さえ感じられる。しかし、場違いにも目元を隠したハーフマスクの白い仮面をし、明らかに禍々しい気配が支配していた。
付近には恐怖に腰を抜かして座り込むリアさんと、うつぶせに倒れて動かない座長がいる。
「大丈夫ですか! 座長! リアさん!」
僕を無視して、仮面の男は落としていた短剣を拾う。
そして、リアさんに向けて振り上げた。
しかし、リアさんは立ち上がることができずに仮面の男を恐怖して見上げている。
「何をしれいる……、クリスならやれる! ここで行かなくて、ろうするっ!」
酔っ払ったままのレナさんが、倒れながら僕の背中を押す。
そうだ。僕がやるんだ。
「おい! 僕が相手だ!」
レナさんに押された勢いのままに、僕は走り出した。
拳を振り上げると、振り返る仮面の男に向けて力まかせに拳を打ち込む。
仮面の男は、僕の拳をまともに受けてのけぞった。
――確かに手ごたえはあった。
踏ん張った仮面の男と目が合う。
僕を見下し、殺意と悦びを帯びた目にゾッとした。
「危ない!」
僕にぶつかるようにして、ミアが飛び込んでくる。
下段から振りぬかれた短剣。
先ほどまで僕のいた場所を真っ二つに切り裂いていた。
僕とミアは立ち上がると仮面の男から距離を取る。
「コイツ、ボクが何度も殴っても効いている手ごたえがないんだよ」
「でも、やれることは――」
僕はミアと距離を取り、一方が攻撃されたときに他方が死角になるようにポジションを取る。
以前、ミアと一緒に戦っときにも、こういうのがあったよな。
「行くよ!」
ミアが仮面の男にとびかかった。
無数の拳や蹴りが仮面の男に襲いかかる。
ミアは手ごたえがないと言っていたが、僕のとは違い、さすがにミアの強烈な攻撃をまともに受け続けるのは少し苦しそうだ。
仮面の男がミアの攻撃を躱し、間を作ると短剣を振り上げる。
すかさず、僕は仮面の男の腕を手刀で攻撃し、短剣を払い落とした。
そして、短剣を取ると遠くに放り投げ、仮面の男に向き合う。
「僕を忘れていませんか?」
ニヤリと口元に笑みを浮かべてやると、仮面の男が僕に向き直る。
「どこ見てんだよ!」
今度は背後から強烈なミアの飛び蹴りが入る。
よろめいたところを、僕が足を払うと仮面の男は倒れ込んだ。
僕とミアは仮面の男を挟んで、互いに死角を作りあうように距離を取った。
よし、やれる。相手は一人だ。これなら時間はかかるかもしれないが、確実に仕留められる。生け捕りにして警護しているはずの軍に突き出してやる。
僕がそう思ったとき、仮面の男が雄たけびを上げて立ち上がた。
「うおおおぉぉぉーーーーっ! 世界を統べる力を我に与えたえよ! エンハンスト・ボディ、レベル・アップ!」
仮面から邪悪な『気』が吹き上がる。
素早い動きで仮面の男がミアに突進すると、あっという間に一撃で吹き飛ばした。
「うわっ!」
道のわきに置かれていた、水がめやリアカーを破壊しながらようやく止まる。
全身がぞわっとした。
急に、爺ちゃんとレナさんに鍛えられた身体が、ここに立ち止まっていてはいけないと警告を発する。
とにかく、僕は身体が感じるまま訳も分からず横へ飛んだ。
そこへ、瞬時に仮面の男の攻撃が入る。
なんだこれ、人の速さじゃない!
一撃目は躱したが、たいした予備動作もなしに回し蹴りが襲ってきた。
ろくな防御もできずに吹き飛ばされ、僕は建物の壁にたたきつけられる。
「ぐはっ」
内臓や肺が圧迫される感触。
僕は血を吐いて倒れてしまう。
そんな僕たちを無視し、仮面の男がリアさんに向き直った。
コイツはダメだ。よく分からないが、モンスター級。生け捕りで警護している軍に突き出すとか考えている場合じゃない。今、僕がやらないと――。
僕の意志に呼応するように腰に付けている短刀の柄がしらにボワッと青く光った。
歯を食いしばって起き上がると、短刀の柄に手をかける。
僕の気持ちに応えるように、鞘から刀身を現した。
仮面の男がリアさんに意識を向けている隙に走り出す。
「うおおぉぉぉ!」
刃を向け、仮面の男へ一直線――。
仮面の男もただならぬ気配を感じたのか、振り返ると僕の短刀を右腕で払いのけるようにして攻撃を躱した。
「わあぁぁぁっ!」
呻き声をあげると、仮面から発していた邪悪な『気』が霧散した。
仮面の男が膝をついて呼吸を荒げる。
見ると、仮面の男は、僕の短刀を払った右腕から血を流していた。
短刀の刃は、払いのけようとした右腕を捕らえていたのだ。
なんだか分からないけど、効いている。やるなら、今だ!
だが、僕が短刀を構えようとした瞬間、素早い動きで仮面の男の拳が僕の顔面にヒットしていた。
また、僕は飛ばされてしまう。
なんて速さなんだ。
だが、飛ばされた僕を見て、仮面の男は右腕の傷を押さえながら逃げてしまった。
「クソッ! 待てっ!」
不意を突かれた最初の一撃が効いているようで、僕はよろめいて膝を付き、残念ながら追うことはできなかった。
それでも、とりあえず、このピンチを切り抜けたか。
少し落ち着いてリアさんを見ると、仮面の男が去って安心している。
こちらは大丈夫なようだ。
そうだ。座長は――。
僕は、全く動かなくなっていた座長のもとへ駆けつける。
見たところ、刃物で切られた跡はなく、血を流しているようでもない。
「大丈夫ですか! 座長!」
座長に声をかけ、体をゆする。
「うぅ……」
よかった、生きている。
「座長、大丈夫ですか?」
座長が上半身を起こすと、頭を振る。
「うぅ……。不覚ですわ。いきなり背後から襲われてしまいましたの……」
後頭部を押さえながら、座長が周囲を見る。
「どうやら、派手にやられたようですわね。わたくしは大丈夫です。それより、リアさんを」
「あ、はい」
僕はリアさんのもとへと駆け寄る。
「大丈夫ですか? どこかおケガはありませんか?」
リアさんは腰を抜かして、座り込んでいた。
「はい。大丈夫です。みなさんのおかげです。ありがとうございます――」
「てやぁぁぁぁーーーーっ!」
突然、少女の叫び声がした。
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