第54話 埋め合わせの食堂で その3
僕は何とかレナさんを起こしたものの、一人で歩けないので肩を貸して歩き出した。そんな僕たちの後ろを、お腹に詰め込みすぎて苦しそうなミアがフラフラとついて来てくる。
周囲の店にはまだ明かりがあり、本来なら人通りもあるのだろう。だが、祭りの前とは思えないぐらいに周囲にほとんど人がいない。そのおかげで座長とリアさんはどんどん進んでしまい、その姿は遠くなる。
「座長! もう少しゆっくり歩いてください!」
「心配ありませんわ。宿屋の場所が分かったら、すぐに迎えに戻ります。ゆっくりとついて来てください」
叫んでみるも、座長からはそっけない返事だ。
僕のことなどお構いなしに、座長は女給のリアさんと共に先に行ってしまう。
夜なんだし、道に迷ったら戻ってくれても会えないじゃないですか。
そんなことを思っていると、急にレナさんがむくっと顔をあげた。
「どうしら、クリス。酒がねぇぞ! ――ってか、なんれ、外にいるんだ? おい、店に戻るぞ!」
「そういうのは終わりました。ちゃんと歩いてくださいよ。まったく、どれだけ飲んだんですか!」
レナさんは指で小さな幅を作って、少量をアピールする。
「ちょっとだ、ちょっと。だから、戻るぞ!」
「今は――、いや、ちょっと!」
僕を置いて、急に店に向かって走り出した。
「レナさん、何してるんですか! そっちじゃありませんよ!」
だが、さすがにレナさんの足元はフラフラで、すぐに倒れ込んでしまった。
なんとも、無様。
そこには僕の尊敬している剣士の姿はどこにもなかった。
「仕方ないな」と思いながら、僕がレナさんを介抱していると、その横でミアが食べたものを口から――。
その光景に、僕は頭を抱えてしまう。
なんだか、カオス。
それでも、なんとか僕は二人を捕まえる。
肩には寄りかかるレナさん、片手にはどこかへフラフラ行きそうなミアの手を握って、座長たちの後を追った。
「ほら、行きますよ! レナさん、ミア」
座長たちの背中は何とか見えていて、大通りから少し細い道へと入っていった。
「なんか、重たいんですけど。寝てませんか? ちゃんと足を前に出してください」
「ああ……」
僕は肩を揺らしてレナさんを起こすが反応が鈍い。
今度は手を強く引かれる。
見ると、ミアが青い顔して口を押さえて首を左右に振っている。
またか。
「無理に詰め込むからだよ。もう、全部出しちゃったら?」
小さくコクコクうなずくと、ミアはスタスタと物陰に走っていった。
ふぅ、と一息つく。
座長は先に行って見えなくなっちゃうし、下手に後を追うより、もう、ここで待った方がいいかな。
「きゃーっ!」
女性の叫び声。
ここで待っていようかなんて、そんな僕の考えは一気に吹き飛んだ。
僕によりかかっていたレナさんが走り出す――。
だが、つまずいて激しく転んだ。
やっぱりダメだ。レナさんは無理。
「大丈夫。ボクに任せて」
膨らんだお腹がすっきりしたミアが走り出した。
出すものを出したようで、ミアの方は大丈夫のようだ。
「ほら、僕たちも遅れるわけにはいきませんよ!」
僕はレナさんに肩を貸しつつも、引きずる勢いで走り出した。
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