第50話 山岳路 その2

「思ったより大変ですね。座長は大丈夫ですか」

「何を……言っているの……ですか。これぐらい、……何の問題も……ありませんわ」


 メチャクチャ呼吸が乱れているじゃないか。

 ふらつきながら歩く座長に僕は声をかけてみるが、そんな感じの強がりが返ってきた。


「この自然が難攻不落の要塞としてガレラスを守ってきましたからね。座長まで無理する必要はありませんよ。クレアと一緒に馬車に乗っていても」


 レナさんが、座長をからかう。


「わたくしの……『お子様扱い』は……許しま……せんわよ」


 息が上がりながらも、さらに座長は強がる。


「ここ、すごく楽だよ。座長も乗ればいいのに」


 クレアが馬車の上から笑顔で見つめる。


「いえ……、大丈夫です……、わ」


 座長は無理やり笑顔を作って見せる。


 続く悪路と上り坂に、馬の負担を軽減するために歩くことにしたのだが、これが思ったよりも大変。街道は馬車も通せる十分な広さがあるけれど、侵略を抑えるために意図的に整備されていなくて、戦乱時代には攻め入るのに苦労したはずだ。今では平和になり、今後は改善されていくのだろうけれど、当面はこのままなんだろうな。でも、不思議と元気も湧いてくる。


「がんばれ。まだまだオルカリアまでは遠いぞ」 


 ガレラスの兵士が笑顔で励ましてくれるのだ。


 道は複雑に分岐し、行き止まりに繋がる道も作られていた。そのため、街道沿いには迷いそうなところでガレラスの兵士が立っており、道案内をしてくれる。そんな兵士が旅人を励ましてくれるのだ。


「ご苦労様です」


 僕も笑顔で返す。

 メンバーもそんな励ましの言葉に勇気づけられながら歩いていた。


 道のわきで休んでいる旅行者もいて、そんな旅行者とかわす笑顔もまた元気を与えてくれる。戦乱時代なら、こんなことはなかったはずだ。兵士たちは不審な人物には容赦なく攻撃しただろうし、旅行者は強盗に襲われないような対策も必要だったはず。道の整備は間に合っていないし、治安も十分とは言えないけれど、それでも見知らぬ人同士が笑顔を交わせるなんて、こんないいことはないじゃないか。


 確かに体力は削られるが、不思議と一歩、また一歩と足が出る。そうやって、メンバーは首都・オルカリアを目指した。


○●○●


「君たち、オルカリアに行くんだろ? この先はさらに分かれ道も多くて迷う者も多い。今日は暗くなってきたから、この先にある広場で休んだ方がいい」


 街道の兵士が声をかけてきた。


「ありがとう。いいですね、座長」


 レナさんの言葉に、疲れ果てた座長が力なくうなずく。

 座長ほどじゃないけど、メンバーも疲れていたようで、すごくホッとした雰囲気になった。


 兵士が示した場所へ行くと、すでに多くの旅行者が休んでいた。疲れ果てて寝ている者、料理を作って仲間と宴会をしている者、荷物の整理をする者など様々だ。広場には兵士も配備されており、治安の面でもすごく安心できた。


「今日は疲れましたね」


 僕は座り込んでしまった座長を見ると、その隣に行って話しかけた。


「別に、問題ありませんわ。兵士のご厚意を無駄にしてはいけないと思ったから、今日はここで休むことにしたものであって、わたくしはまだまだ歩けたのです」


 プイと目線をそらせて、なんだか不満そうにして見せる座長。


 いや、そんなにムキにならなくてもいいと思うんだけどな。子供じゃなくたって、この山道は疲れると思いますよ。

 それでも、それを言っちゃいけない。その強がりを傷つけてはいけないと、精いっぱい微笑んでみた。


 周辺の薪は取りつくされているようなので、レナさんが兵士から薪を分けてもらい、メンバーが焚火を囲んだ。もう、それだけで気持ちが和んできた。


 グゥ~。


 ミアのおなかが鳴る。


「ちょっと待てよ。心配しなくてもこれからメシだって」

「これはボクの意思では抑えられないんだけど」


 笑いながらご飯の準備をするレナさんに、ミアがお腹をさすりながら答えた。


 今日のご飯は、あぶった干し肉に少しばかりの固いパン。旅の定番のメニューだ。別に悪くはないんだけど、正直食べ飽きたかな。ミアじゃなくても、早く街に行っておいしいものが食べたい。


 食事の準備が整うと、メンバーで干し肉とパンを分け合った。


「座長、この食事も今日でしばらくお別れですね」


 ミアじゃないけれど、僕の期待も高まる。


「道中を支えてくれた食事ですから、悪く言うつもりもありませんの。ですが、新しい街で新しい食事に出会えることも楽しみですわね」

「楽しみなんてもんじゃないよっ! ボクはこのために生きていると言っても過言じゃないんだから」


 相変わらず、元気なミアが力説する。


「食事も大切だけど、あたしはベッドで寝られることが楽しみかな」


 イザベラ姉さんが呟く。


 確かにそうだ。木に寄りかかったり、地べたに寝る生活も慣れてしまえばなんてことはない。だけれども、フカフカの布団で一夜を明かした朝の感動と言ったら、何物にも代えがたい。それは人類最高の発明だよ。布団を発明したの、誰? 表彰してあげたい。


「お布団、楽しみ!」


 干し肉をほおばりながらクレアが言って、メンバーも同意する。

 なんだか、オルカリアでの楽しみを語り合いながら夕食を済ませ、早めに疲れた体を休ませることにした。

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