第45話 魔獣、復活! その8

 魔獣を倒し、なんとなくメンバーもホッとしているときだった。


「ティアナ王女!」


 座長が声の方を見ると、キャンベルが馬に乗って向かってくる。

 爆散した魔獣の亡骸の横を抜けてきた。


「ティアナ王女、よくご無事で!」


 キャンベルは馬を下りると、座長のもとへ駆け寄ってくる。


「はい。無事に魔獣を仕留めることもできましたわ」

「優秀な部下のおかげで、でしょ?」


 レナさんが横槍を入れる。

 一瞬、座長はムスッとしてレナさんを見るが、それでも微笑み取り戻す。


「そうですわね。部下のおかげで倒すことができましたわ」

「『優秀な』ね」


 さらにイザベラ姉さんが付け加えると、こらえきれずにキャンベルが笑い声をあげてしまう。


「失礼。素晴らしい部下をお持ちのようで」

「んー、本人たちがいる前でむやみに褒めないでいただきたいですわ。調子に乗ってしまうものですから」

「分かりました。では、そのように」


 そう言うと、キャンベルは真剣な顔に戻ると膝をついて服従の姿勢を取った。


「今回のことは、私どもの不祥事。詳細を調査の上、必要な処罰を行い、後ほどアルテアの国王には直接ご報告申し上げるつもりです。囚われた子供たちも、私どもで責任をもって対応いたします。なにとぞ、寛大な処置をお願いします」


 座長は小さくうなずく。


「分かりました。その旨、国王には知らせておきます。後の処理は、あなたにお任せしますわ。これからも両国の平和な関係を築くために協力をお願いします」

「ははーっ」


 一度、キャンベルが深く頭を下げる。

 そして、ゆっくりと立ち上がると、うつむいたまま、クラークのもとへと歩いていった。


「座長、クラークは――」

「よいのです。この国での処罰は彼に任せました」


 レナさんの言葉に座長が答える。

 メンバーはキャンベルたちの様子を見守っていた。


「キャンベ……ルさま……、わた……しは……なんということ……を……」

「もう、よいのだ」


 キャンベルはクラークの側へ座ると、その手を取る。


「私が……全てを企て……、元兵士……をたぶらかし……た。気づいた……キャンベル様が私を処刑し――」


 キャンベルは首を横に振ると、柔らかな表情を浮かべる。


「もうよい。よいのだ、クラーク。私の力が足りぬが故に、お前には苦労をかけたようだな」

「いえ……足りなかったのは……キャンベル様では……なく、再び、この国は――」 

「いや、私だ。すべて私の責任なのだ。――そして、すべて終わったのだ。死力を尽くし、そして負けた」

「いえ……、まだ……負けと決まった訳では――」


 再び、キャンベルは首を横に振る。


「いや、負けたのだ。だが、負けた後でも、私や国を想い、行動してくれる――。そんな部下たちと戦えたのだ。私もいい部下を持った。そして、今のアルテアの国王は私を処刑しなかった。様々な条件は飲まされたものの、この地域の再建を託してくれたのだ。私はなんという幸せ者だろうか」

「そんな……。無能な私などは……」


 キャンベルはクラークの手を握る。


「ありがとう。楽しい時間だった。共に統一を夢にし、覇を競い合った。その側にクラーク、お前がいてくれて本当に良かった」

「いえ……もったない――」

「もう話すな。クラーク。お前は新市街地の民を見たか? 幸せそうじゃないか。どうやら、アルテアの王は、私より相当器が大きいようだ。この大陸を統治せよと神に選ばれたのも頷けるというもの。彼の下につけるということも、また幸せに思うぞ」

「キャンベル……さま……」


 クラークは涙を流す。


「もう、終わった、終わったのだ」

「――はい」

「けじめは必要だが、盗賊に落ちた者たちも悪いようにはせぬ。だから……、もう休め。ゆっくりとな」


 クラークは全力で小さくうなずく。

 だが、その手は握られたキャンベルの手から滑り落ちた。


 キャンベルは何かをこらえるようにクラークを抱え上げると馬に乗せる。


「それではティアナ王女、これにて失礼いたします」

「はい。後のことはお任せします」


 キャンベルは一礼の後、去って行った。




「ねー。夜が明けてくるよー」


 ミアが空を見上げる。

 さっきまで暗かった空が、青さを取り戻し始めていた。


「座長。とりあえず、宿屋に戻りませんか? ゆっくり休みたいです」


 疲れた顔でレナさんが座長を見る。

 そう聞いて、他のメンバーも頷いた。


「そうですわね。みなさんも、ご苦労様でした。では、戻ることといたしましょう!」

「「「「おうっ!」」」」


 メンバーが手を突き上げて応える。

 だが、レナさんが不満そうにバシッと僕の頭を叩いてきた。


「座長がおっしゃってるんだ。何、ボーっと突っ立ってんだよ」

「でも、僕が加わってもいいんですか?」

「何を言ってるんだ? もう逃げられないぞ、下っ端!」


 僕の襟首を捕まえて、イザベラ姉さんが口の端を上げる。


「座長! もう一回お願いします!」


 ミアが元気に手を上げる。


「まったく、みなさんは……。いいですか? では、戻りますわよ!」

「「「「「おうっ!」」」」」


 僕を含め、メンバーが手を突き上げて笑いあった。

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