第46話 新たなる旅へ

 翌日、さすがに疲れてしまい、メンバーの誰もが丸一日寝て過ごした。どうやらカスターの町の人や軍も、ぐったりと疲れてしまったらしい。真夜中に魔獣対応のため発した、キャンベルの非常事態宣言で緊張状態に置かれたためだ。だが、頼りになる領主のキャンベルが来ていること、魔獣が倒されたことから、一転して今の町はちょっとしたお祭りのようだった。

 そこにはかつての戦乱の緊張感はない。それは、この国が覇者になれなかった事実でもあり、少し寂しいことなのかもしれない。だが、こういう日のために頑張ってきたんだと思う。


「どうでしたか。町の様子は。あなたが守ったのですわよ」


 あれから二日目の朝、町の様子を見てきた僕が宿舎に戻ると、座長が迎えてくれた。


 そう言われても、僕だけで魔獣は倒せたわけじゃない。

 座長がいなければ、メンバーがいてくれなければ、こうはならなかった。


 僕は首を横に振る。


「違います。座長と、メンバーみんなの力です」

「そうですか」


 座長は少し嬉しそうにする。


「お兄ちゃん!」


 急に宿屋の玄関からクレアが飛び出し、僕に抱きついてきた。


「クレア、大丈夫なのか?」


「とりあえず、心配ないようだ。人間の限界を超えて人為的にマナの容量を増やされたからな。廃人になってしまうかとも思ったが、まぁ、大丈夫そうだ」


 髪をかき上げながら、イザベラ姉さんも出てきた。

 少し眠そうに見えるのは、僕の知らないところで、クレアの面倒を見てくれていたのだろう。


「よかったな、クレア」

「うん!」


「みんなーっ! そろそろ出発の準備、しませんか?」


 ミアが馬車に乗って現れる。

 その荷台にはレナさんとマイラもいた。

 レナさんはサッと荷台から降りると、座長に駆け寄ってきた。


「私たちで買い出しをして、次の旅に備えようと思います」

「わかりました。そちらはレナたちにお任せしますわ。イザベラも少し休んだら、出発の準備をしてください」

「ありがとうございます。そのようにさせてもらいます」


 メンバーは出発の準備を進めていた。


 街の平和を取り戻し、これでアイリス劇団のメンバーは次のところへ行ってしまうんだ。僕はクレアを助け出して、目的を果たしたわけだから、もう――。だけれども……。


「あの――」


 少し心配しながら、僕は座長に問いかける。


「僕は、どうすればいいでしょうか」


 座長は少し間をおいて答える。


「わたくしたちの答えは決まっていますわ。それより、クリス。あなたはどうしたいのですか」

「僕は――」


 爺ちゃんの形見の短剣に手をやる。


 この戦乱を完全に終わらせるために戦うと決めたんだ。ここに残るって選択肢はないな。


「アイリス劇団について行かせてください。お願いします」

「はい。もちろん。同行を許可しますわ。これからもよろしく」


 座長が手を差し出す。

 その手を取ろうとして、僕は躊躇した。


「えっと……、王女様ってことだから、その――」

「そんなこと、今頃になって気にすることか? これまでどおりでいいんだよ!」


 レナさんが、バンと僕の背中を叩く。


「いえ、みなさまは、もう少し私を敬うべきですわ。いいですか、クリス。隠密行動のためにもこれまでどおりで構いませんが、他のメンバーを見習ってはいけません。よろしいですわね?」


 レナさんの方を見ると『そんなの無視しろ』とばかりに笑っている。

 さすがに、それを鵜吞みにはできない。

 だけれども、座長の手を握り、これまでどおり接してみる。


「は……、はい……、あの、頑張ってみます」

「はい。期待しておりますわよ」


 座長は笑顔で返してくれた。


「そうそう。仮とはいえ、称号までもらってるんだ。しっかり、王女様のために働いてもらうぞ」


 レナさんがからかってくる。


「レナさん、僕も称号なんかもらっていいんでしょうか。まだ、何もしてないのに」

「言ったろ? そんなもの、国王でなければ『(仮)』さ。それに実績なんて、この旅で作ればいい」

「できますか? 僕に」

「さぁ。できなきゃ、死んでるな。どちらにしても、問題ないじゃないか」


 レナさんはニヤリとする。


「随分と、おそろしいこと言うんですね」

「そんなに心配するなよ。だけど、みんな、その覚悟はできてるんだ」


 そう言われて、僕は苦笑いするしかない。


「はい、分かりました。やれるだけ、やってみます」

「でも、騎士って馬に乗れなきゃダメなんだぞ。正式に王様のところに行くまでに、自分の馬も用意しとけよ」


 なんだか、いろいろ難しそうなところはあるけど、みんないい人で、ここに入れてもらえて本当によかったと思う。


「それでクレアは、どうなるんでしょうか?」


 メンバーが顔を見合わせる。

 助けなければとは思っていたが、みんな、そこから先は考えていなかったのだろう。


「誰が何と言おうと、クレアは連れていきますわよ!」


 座長がクレアを抱きしめて宣言する。

 だが、レナさんがクレアを奪い取った。


「座長。アイリス劇団は崇高な目的のために行動しています。自分より年齢の低い者の確保という、身勝手な目的で少女を危険にさらす訳にはいきません!」

「何を言うのですか! では、ここに一人、置いて行けと言うのですか!」


 また、座長がレナさんからクレアを奪い取る。


「いくらでもやり方はあるじゃないですか。アイガー卿の信頼も勝ち得ているので、ここに置いて行っても問題はないと思いますよ。まさか、妹にまで称号を与えるおつもりで?」


 レナさんが悪そうな顔をする。


「いや……それは、そういうやり方もできないわけでは……ありませんけれども……」


 座長は答えに窮した。

 それを見て、クレアが不安そうに周りを見る。


「ウソですよ。座長の身勝手だけなら、そうしたかもしれませんが、クリスの妹です。二人を引き裂くなんてことするわけないじゃないですか」


 レナさんに遊ばれていたことにハッと気づいて、座長はプッとくれる。

 そんな座長を見て、メンバーは大笑いしていた。

 それでも、僕には少し気になることがある。


 確か王族と行動を共にするには一定の身分などがなければならないはずだ。それで、僕は遠ざけられていたんだから。


「あの、クレアはどういう立場でアイリス劇団に入るんでしょうか?」


 僕の不安を感じたのか、レナさんが心配ないとばかりに笑って見せる。


「そんなの、テキトーでいいんだよ。クレアは女の子なんだから、ミアと一緒で、座長のお世話係ってことでいいですよね?」

「んー……。まぁ、そんなところかしら。理由なんて、どうでもいいんです。クレアがいてくれるなら、わたくしは何も申しませんわ」

「本当? 座長、大好き!」


 クレアが嬉しそうに座長にしがみつく。


 座長も平静を装っているようだが、本心ではクレアに抱き着かれて嬉しくてしょうがないのだろう。座長はレナさんの扱い方にかなり不満があるようだが、希望が通っているので、そっち方でも自分を抑え込んでいるようだ。


 楽しそうにしている座長とクレアを見ながら、レナさんは「気にすることはない」と僕に笑顔を向けてきた。


「ところで、前から思っていたんですけど、いいですか? マイラもクレアとほとんど変わらないくらいの年だと思うんですけど、年齢はいくつなんですか?」


 気になっていたことを不用意に訊いてみた。

 それに、レナさんが嬉しそうに反応する。


「あー、それ訊いちゃう? ほら、マイラの耳、少し尖ってるだろ? ちょっとエルフの血が入っているのさ。だから、純血ほどじゃないが、長生きで成長もゆっくりって訳なのさ。実際の年齢は、人種族の私からすればマイラおばさ――、ぐはっ!」


 マイラはサッと馬車から降りると、抉りこむようにレナさんの鳩尾に拳を入れる。

 レナさんは一発で白目をむいて倒れこんだ。


「イザベラ、お仕置きをしたいと言っていたな。代わりにやっておいた」

「あ……、ありがとう……」


 突然のことにイザベラ姉さんも言葉を失っている。

 そして、マイラはゴミでも扱うように足で蹴って、レナさんを仰向けにする。そして、抱え上げると馬車の荷台に雑に放り込んだ。


「それでは座長、私は買い出しに出ます」


 マイラは座長の返事も聞かずに、ミアを促すと馬車で行ってしまった。


「いろいろと女の子は難しいのですわよ。クリスも気を付けてくださいませ」

「えっと……、はい……」


 なんか、上手くやっていけるか、ちょっと自信がなくなったかも。

 色々あったが新たな旅の出発に向けて、メンバーが最後の準備をすることになった。


◇◆◇◆


 出発の準備が整い、メンバーが集まる。

 そして、全員が馬車に乗り込み、後は出発するだけとなった。


「みなさま、よろしいですわね?」


 座長がメンバーの顔を見渡す。どの顔も新たな旅への期待にあふれていた。


「それでは、次の町へ出発ですっ!」

「「「「「「おう!」」」」」」


 クレアまで入って、メンバー全員がこぶしを突き上げる。

 そして、アイリス劇団は次の町へと出発した。


                          メンヒ公国編 おわり

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ハーイ! ミアだよ!


 ここまで読んでくれてありがとう! これで「メンヒ公国編」は、終わりになっちゃいます。


「えー!」って言ってくれた、そこのアナタ! ありがとう! でも、心配ご無用なのだ!


 もちろん、この後も旅は続くから、来週も楽しみにしてね――って、言うことなんだけど、この物語を書いているポンコツ(=作者)は、仕事が遅い! もう、本当に遅い! だから、まだ書き上げてないんだ。


 という訳で、もうしばらく待ってね。


 でも、本当に許せないよね? ボクたちが悪いんじゃないのに、楽しみにしてくれる人を待たせるなんて。だから、その代わりと言っちゃなんだけど、ボクが代わりにポンコツ(=作者)をボコボコにしておいたから!


 ん? そんなことしたら、かえって遅れちゃわないかって?

 そうかもだけど、待っている人の気持ちの問題だからさ。OKなのです! えへん。


 次はどんな国に行くのかな? 楽しみだよね? うんうん。そうだよね。


 多分だけど、ボク、大活躍するような、そんな予感がするんだ。

 だって、ちょっと前にポンコツ(=作者)のところに召喚されたときに、ボクのファンがいて、後押ししてくれたみたいなんだ。だから、まともな人間なら、配慮するはず。


「アノ……、ゴメン。ミアファン ガ イルコト ハ カナリ カイテ カラ ワカッタコト。ダカラ、ハイリョ デキテマセン」(←作者の発言)


 は? おい! ふざけんな――っ!


(バシ!バコ!ボコ!――……。)

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