第44話 魔獣、復活! その7

 振り落とされた衝撃で全身に痛みが残るが、魔獣が首を下げていたために、それほど大きなケガにはなっていないようだ。そんなことより、クレアが――。


 僕は全身の痛みをこらえながら魔獣の亡骸に駆け寄る。

 そして魔獣の肉片をかき分け始めた。


「クレア! どこだ! 返事をしろ!」


 魔獣の身体はかなり細かく吹き飛ばされている。

 ひょっとしたら、クレアの身体も……。


 僕は強くかぶりを振る。


 レナさん、イザベラ姉さん、ミア、マイラ、そして、座長も駆けつけた。

 肉片をかき分けながらクレアを探し始める。


「お兄ぃ……、ちゃん……」


 声が聞こえたような気がした。


「どこだ! クレア!」


 僕はその方向へ走る。

 そこには身体が魔獣の肉と同化しかかったクレアがいた。


「クレア、大丈夫か!」

「待て! それ以上触るな! 無理に引きはがせば女の子の身体に痕が残る」


 僕を押しのけると、イザベラ姉さんはクレアに手をかざす。


「イザベラ、大丈夫なのですか?」


 見回すと、座長はもちろん、メンバーが心配そうに集まっていた。

 みんな、魔獣の体液まみれで緑色でネチョネチョしている。


「はい、大丈夫です。魔獣は死んでいますので。生命活性がある部分とそうでない部分が、少し魔力を流し込んでやるだけできれいにはがれると思います」


 少し時間はかかったが、イザベラ姉さんは身体からきれいに魔獣の肉をはがすと、クレアの上半身を支えるように抱えた。


「クレア……大丈夫なのか?」


 少し微笑んで頷くクレア。

 ようやく僕の緊張感も解け、安心した。


「ごめんな、兄ちゃんのためにクレアがこんなことになってしまって……」


 クレアは小さく首を横に振る。


「そんなことないよ。ありがとう」

「うん。今はゆっくり休め」


 僕はクレアをぎゅっと抱きしめてやった。


「クリス、あなたこそ大丈夫なのですか?」


 吹き飛ばされた僕を気遣う座長。


「大丈夫です。座長との約束は必ず。これからも、必ず戻ってきます」


 何とか笑顔を返す僕に、座長がホッとする。


「わたくしを心配させないでください。クリスが死んでしまっては、もうわたくしは……」


 座長は顔を逸らし、何かをこらえる。


「こんなことで、この旅が終わるわけがないじゃないですか。だって、アイツの代わりが見つかったんです。本当の旅はこれからなんですから」


 ボロボロになったレナさんが座長の側に近づいてきた。


 座長はメンバーの顔を見渡す。

 残念ながら緑色で、ネチョネチョ。

 どこか、生意気そうで、でも、自信に満ちた顔つき。

 そんな顔に安堵していたようだった。


「まったく、なんて人たちを選んでしまったのかしら。もっと、優秀な人なら、こんなに心配しないで済んだはずですのに」

「だって、仕方がないじゃありませんか。リーダーがお子様なんですから」


 レナさんが舌打ちをして言う。


「リーダーや周りの人選がよければ、あたしの能力もフルに発揮出るんだけど、選んだ人のレベルがねぇ……」

「もっと人生経験を積んでから文句を言えってことです」

「でも、ボクはお子様が故の無謀さってのが、旅を面白くするって思うんだけどなー」


 イザベラ姉さん、マイラ、ミアも続いて悪態をつく。

 結局、ダメなもの同士ってことで笑いあっていた。


「クリス、ちょっといいか?」


 レナさんが僕の短剣を手に取って、刃先を見たり、何度か振ってみる。

 気が付けば、短剣は普通の短剣に戻っていた。


「さっき、光ってなかったか?」

「はい。でも、どうしてなのかは分かりません。爺ちゃんも何も言っていなかったので」

「そっか。なら、クリスの爺ちゃんが守ってくれたってことでいいじゃないか」

「はい」


 そんな話をレナさんとしているときだった。

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