第43話 魔獣、復活! その6
メンバーが魔獣をめがけ、各役割を果たすべく散っていく。
それを見とどけ、座長は僕に近づいてきた。
「クリス、あなたにも命じます。レナと共に弱点である目を狙いなさい。信じています。あなたが魔獣を倒し、そして、わたくしの元に帰ってくれることを」
僕は差し出されたロングソードを受け取った。
「はいっ!」
僕はレナさんの後を追って、走り始めた。
魔獣の視線を邪魔するようにマイラが矢を放ち、気を取られて魔獣の動きが鈍る。
その間にイザベラ姉さんが呪文の詠唱を終え、再び魔獣の足が氷に覆われた。
今度は片側の三本だけを固める。
イザベラ姉さんの狙いどおり、バランスを崩した魔獣は横倒しになった。
座長の指示に沿った、見事な連携。
それらを当然のこととして、レナさんは地面に倒れた魔獣に向けて走りこむ。
「クリス! 行くぞ!」
「はい!」
僕はレナさんの後ろを走る。
地面に打ちつけられた魔獣の頭をめがけ、レナさんが走りながら剣を振り上げる。
「はああぁぁぁぁっ!」
無駄のない軌道を描き、力の乗ったレナさんの一撃。
ロングソードは魔獣の第三の目に突き刺さるが、その強靭な保護膜は貫けない。
「クソッ! なんて硬いんだ!」
「レナさん! 僕も行きます!」
全力で走り、その勢いに任せて続けて刺突する。
だが、重い衝撃が手に跳ね返ってきた。
僕の剣も魔獣の保護膜を貫けない。
魔獣は僕たちの攻撃を嫌がり、大きく首を振ってのたうち回る。
わずかに食い込んでいたレナさんの剣も吹き飛んでしまう。
素早くレナさんが魔獣の動きを察知し、僕の手を取ると魔獣から距離を取った。
そのまま立ち尽くしていれば、クラークのように暴力的な力に吹き飛ばされていただろう。
「本当にあの目が弱点なのか? とても刃が通る気がしない」
レナさんが少し弱気なことを言う。
だが、倒すと選択した以上、引くわけにもいかない。
魔獣はゆっくりと立ち上がると、再び口を開ける。
そして、目障りな矢を放つマイラに向けて炎を放った。
マイラも素早く移動するが、魔獣の炎はマイラを的確に追い始めた。
「おい! 脳筋女! 魔獣の狙いが正確になってきたぞ。意識が覚醒し始めている。もうすぐ完全復活するぞ! 早くやっちまえ!」
「黙れ、インチキ魔術師! そのぐらい、私でも分かる!」
そうイザベラ姉さんに言い返すが、レナさんは魔獣を睨んだまま、次の手を打てないでいた。
しかし、時間はどんどんと過ぎていく。
「ボーっとするな! 多分、足止めはこれが最後だ! 死ぬ気で斬れ!」
再び、イザベラ姉さんが魔法の詠唱を開始。
だが、魔獣は吼え、激しく足踏みをする。
すると、イザベラ姉さんの魔法に干渉したのか、術式が完成前に魔法円が霧散。
少しだけ足は氷で覆われ、魔獣は膝を折って動きを止める。
だが、倒れるまでには至らない。
「おい! インチキ魔術師! これじゃ、目が狙えねぇ!」
「うるさい! こっちだって全力でやってるんだ!」
このままじゃダメだ。せっかく座長が魔獣討伐を目指してくれたのに、クレアを助ける選択をしてくれたのに、このままでは倒せない。せっかくの座長の決心も、酒場のオジサンたちや、カスターの町の人にも被害が出る。僕をメンバーに迎えてくれた座長やみんなに応えなきゃ。レナさんができないなら、僕がやらなきゃいけない――。
僕はゆっくりと深呼吸をする。
爺ちゃん、僕はどうすればいい? 僕が剣を持つ理由が見つかった。一緒に戦ってくれる仲間が見つかった。こんなに良くしてくれて、僕を認め、迎えてくれた座長の選択が間違っていたなんて後悔させたくないんだ。
『――戦いは宿命なのかもしれん。これはお前のものだ。この短剣がお前の道を示すだろう。だが、飲まれるな。それに打ち勝つほどに強くなれ。これからがお前の戦いだ。さぁ、早く!』
僕に向けた爺ちゃんの最後の言葉を思い出す。
ロングソードを手放して、爺ちゃんが持たせてくれた短剣を手に取る。
気持ちが決まると緊張がほぐれ、落ち着いてくるのが分かった。
「新しい時代は僕たちが作っていくんだ。町を荒らし、みんなを困らせる魔獣――」
僕は短剣を右手で高らかに掲げる。ぼわっと柄頭に青白い光が点る。
「そんなヤツを、僕は許さないっ!」
そして、息を吐きながら腰を落とし、短剣を構えた。
すると、刀身の怪しげな文字に青白い光が一瞬走ると、刃に青白い光を放つようになった。
「なんだこれ?」
一瞬、急に光を放つようになった短剣に驚く。
だが、かぶりを振って集中する。
爺ちゃん。よく分からないけど、これで殺れるんだな!
「うおおぉぉぉっ!」
僕は魔獣に向けて走る。
アイツは膝をついて止まっている。今ならやれる。
僕は魔獣の後ろへ回り込むと、尻尾からその身体に駆け上がった。
ちょっとした建造物ぐらいの体格だ。
ここから落ちれば命が危ないかもしれない。
「クリス! 危険だ! 降りろ!」
レナさんが叫ぶが、ここまで来て引き下がるわけにいかない。
魔獣は正気を取り戻し始めている。ここで失敗するわけにはいかないんだ。
僕が背中から殺意を持って向かっていることに魔獣は勘づいた。
ぐるりと長い首を回して振り返り、火の玉をぶつけてくる。
だが、僕は姿勢を低くして、それを躱した。
「やれます! これが最後のチャンスです! 援護、お願いします!」
メンバーが全てを理解する。
マイラの矢が、イザベラ姉さんのファイアーボールが、魔獣の目の前を通過した。
何度も首を振って魔獣は嫌がり出した。
だが、僕から気が逸れたものの、首を高く上げて逃れたため、赤い目に届かなくなった。
「クソッ! この野郎! てめぇの相手は、この私だ!」
状況を察知したレナさんがロングソードを魔獣の目に向けて投げる。
その剣はむなしく魔獣の目を覆う保護膜に弾き返された。
だが、それで魔獣がレナさんを倒すべき敵と認識したようだ。
今度は長い首を低くして、レナさんを狙い始める。
「そうだ! 私はこっちだ! お前に根性があるなら、かかってきやがれ!」
魔獣に拳骨を示し、レナさんは魔獣を引き付ける。
今しかない!
僕は魔獣の背中を抜け、その首の上をしがみつくように登っていく。
早く倒さなければ、レナさんも危ない
不安定な魔獣の首の上を、バランスを崩しそうになりながらも急いで走り抜けた。
メンバーが魔獣の気を逸らせてくれた。
レナさんが注意をひきつけて、チャンスを広げてくれた。
本当に、本当にこれが最後のチャンスなんだ!
魔獣の首を登りきると、その頭にたどり着く。
そんな僕のことはお構いなしに、魔獣は口を開くとレナさんを狙い始めた。
喉の奥にエネルギーがたまり始める――。
そうはさせない!
短剣を振り上げる。
「これで終わりだ!」
短剣を魔獣の第三の目に向けて振り下ろす。
青白く光ったままの刃は保護膜を突き破り、赤く輝く瞳を切り裂いた。
「ウオオオォォォッ!」
魔獣の絶叫!
悶える魔獣に僕は振り落とされ、地面に叩き続けられる。
次の瞬間、レナさんに向けて出そうとした魔獣の炎のエネルギーが体内で爆散。
その魔獣の身体に電撃のような衝撃が走り抜けていく。
「クリス、逃げるぞ!」
僕は無様にレナさんに担ぎ上げられると距離を取る。
はじけ飛ぶ魔獣の身体と、その爆発エネルギーに巻き込まれながら、レナさんに担がれたまま僕は逃げ切ることに成功した。
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