第42話 魔獣、復活! その5
レナさんに差し出された剣を手にしようとして、座長は躊躇する。
「正式なものは国王でなければ……」
「国王に所要がある場合などは、仮ではありますが王族なら大丈夫なはずです。どうせ、一代限りのものでありませんか」
それでも座長は剣を見つめている。
「王族のわたくしと一緒にいては、いつかその身に危険がおよびます。今からそれを求めるのは――」
レナさんが首を横に振る。
「誰に遠慮をしているんですか。確かに、私も最初にクリスを引き入れようとしたとき、どうしたのかと思いましたよ。ですが、教会の前でクリスと踊っていたとき、なんとなくこうなるような気はしていました。このアイリス劇団に足りなかったものです。これは座長と一緒にアイリス劇団を作ったアイツもきっと望んでいるはずです。座長の選択は正しいと、そう信じてこの旅に送り出してくれていたヤツですから。さぁ――」
再びレナさんから剣を差し出され、座長は戸惑いながら剣を持つ。
その振る舞いから座長の意思を感じ取ったレナさんが、メンバーに視線を送った。
「クリスをここへ!」
レナさんの意図を理解したミアとイザベラ姉さんが、僕の両脇を抱えて立たせる。
そして、座長の前へ連れ出された。
「今後、私たちの旅において、たくさんの危険に身を投じることになる。命の保証もできないだろう。それを承知のうえで、クリスに一つ訊きたい。これからも私たちと行動を共にする気はあるか」
レナさんの言葉に対し、僕は取り囲むメンバーの顔を見回す。
そして、座長の顔を見た。
メンバーに助けてもらって命を救われた。
座長に認められて一緒に行動させてもらった。
すごく短い時間だ。
だけど、すごく充実した時間だった。
もう僕には他に戻る場所はない。
僕のこれからの戦いは1人ではできないし、座長たちと目指す方向は同じ。
それに、僕やクレアのためにメンバーが行動してくれるというなら……。
いや、そんな理屈の問題じゃない。
僕の心は決まっているじゃないか。
僕の生きる意味は、居場所は、そのための選択は一つしかないんだ。
「はい。お願いします!」
僕の言葉を受け、レナさんは座長を見る。
「――だそうですよ。他のメンバーも同じ意見みたいです」
座長はメンバーを見る。
どのメンバーも当然と言った顔つきに、座長は重いため息をつく。
「本当に、みなさんは……」
「大丈夫です。座長が選んだメンバーがいるのですから」
「どうやら、わたくしはどうしようもない人たちを選んでしまったようですわね……」
不安そうに定まらなかった座長の視線が僕に向けられる。
レナさんは座長の表情に決意を感じたのか、目線を僕に移した。
「そこの者っ! こちらはアルテア統一王国の第三王女、ティアナ・ダフィール様であるっ!」
イザベラ姉さんがニヤリと笑いながら、右膝の後ろを蹴り飛ばし、僕は強制的に跪く姿勢となった。さらに、ミアが頭を軽く押さえこんでくる。そのあと、座長が座長自身の正面に剣を持った。
「いつ、いかなる時も、我が剣となり、その勇敢なる誇りを示せ。あなたの名誉と信頼はアルテアの王家の繁栄と共に。クリス・フォスター、あなたに騎士の称号を与える」
座長は僕の肩に剣を当てる。
「クリス、あなたを共に戦う仲間、このアイリス劇団の正式なメンバーとして認めます」
座長の言葉が終わると、突然、イザベラ姉さんが僕の首根っこを掴んで立たせた。
「よしっ! 下っ端! 今回のあんたの任務は魔獣のエサだ」
「えっ?」
「エサでも何でもやるって言っただろ?」
「えっと、そうですけど、そう言われてしまえば……、痛て」
レナさんが僕の頬を叩く。
「おい、大丈夫か? そんなのウソに決まってるだろうがっ! もうメンバーの一員なら、コイツの扱い方も覚えろよな」
「にゃはははっ。何だか町が破壊されそうな大ピンチだって、忘れちゃうぐらい楽しいよね!」
「そうですわ! 大切なことを忘れるところでしたわっ!」
幸い、まだ魔獣は身体をうまく動かせないのか、城壁を壊しながらのたうち回っている。だが、これ以上、時間を無駄にすることは許されない。
「みなさん! 魔獣を討ってください!」
「「「はい!」」」
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