第41話 魔獣、復活! その4

 座長はキャンベルとレナさんの顔を何度も見る。

 グッと歯をくいしばったかと思うと、今度は魔獣を見て、メンバーを見た。

 そして、僕と目が合ったかと思うと、自分に言い聞かせるように呟いた。


「今や世界を統治する立場となったダフィールド家の一員ではありますが、結局、一人では何もできないということなのですわね。ならば、わたくしを守り立ち向かうまでに成長してくれたクリスを見捨てて、この旅に望む結末など迎えられるはずもありませんわ」


 しばらくの沈黙の後、フッと座長の体から強張りが抜けていく――。


「魔獣ダウラギリを討ちます」


 メンバーの安堵、そして、キャンベルのため息があった。


 キャンベルの胸中は複雑であろうが、敗れたとはいえ一国を統べるもの。

 切り替えも一流。


「では、ティアナ王女、私は旧市街地の住民の避難を。状況に応じて他の市民も避難させるように体制を整えてまいります」

「お願いいたします。あなたの意に沿わない決断かと思いますが――」

「いえ。元はと言えば我が家臣の失態。こちらのことはお構いなく。それより、強敵です。ご武運を!」


 キャンベルは馬の上でぐったりと乗せられているだけのクラークをおろして寝かせると、一度、手を握る。


「しばし待て。必ず戻ってくる。戻るまで、死ぬことは許さんからな」


そして、クラークが小さくうなずいたのを確認すると、馬に乗って旧市街地の方へ去って行った。


 メンバーが座長の周りに集まる。

 僕もフラフラと座長の近くに寄っていく。


「さて、みなさま。もうわたくしたちに退路はありません。イザベラ、魔法で魔獣の足止めを行いなさい!」

「はい!」

「マイラ、弓で顔狙って注意をひきなさい」

「はい!」

「ミア、あなたはレナの援護を」

「はい!」

「レナ、あなたは弱点である目を狙いなさい」

「はい!」

「失敗は許されません。いいですわね? それでは――」

「待ってください! 僕は! 僕は何をすればいいんですか!」


 座長の言葉を遮るように、僕はその前に立つ。

 だが、座長は小さく首を横に振る。


「何度も言わせないでください。わたくしとクリスとは違うのです。そこで待っていなさい」


 クレアのために、それは、つまり僕のために戦いを決めてくれた。メンバーが僕とクレアのために動いてくれるんだ。なのに、僕が何もしないなんてありえない。


「僕のために魔獣を倒すことにしたんでしょ? なら、僕が何もしない理由はありません。エサになれというなら、それでもかまいません! 僕にも何かやらせてください!」

「何をうぬぼれているのですかっ! クリスやクレアさんへの同情ではありませんわ。今後も復活を企てる輩がいないとも限りません。わたくしが集めたメンバーなら勝てる、そう信じただけです」


 何でもいいんだ。ここまで一緒に来たんだ。僕にだって、僕にだって――。


 僕は崩れ落ちるように座り込んだ。


「座長、待ってください」


 そんな僕の姿を見て、レナさんが座長の前に立つ。


「クリスだって、私たちと同じように座長が選んだメンバーじゃありませんか。少なくとも、私はそう思っています」

「いえ、それは……」


 座長は顔を背ける。


「あたしたちのケンカの仲裁役もいなきゃ、メンバーがバラバラになりかねません」

「短い時間ですが、共に本件にあったことは事実です」

「ボクも、クリスがいた方が楽しいかな」

 イザベラ姉さん、マイラ、ミアもレナさんに続く。


「座長。皆も同じ意見です」


 だが、レナさんの念押しにも、座長は真剣な顔で強くかぶりを振る。


「アイリス劇団は王室直属の部隊ですっ! アルテアの軍人、認められた王族の付き人、それなりの身分を与えられ、信頼のおける者のみが、日々、王族と共に行動することが許されるのです。また、王族であるわたくしと共に行動するということは、わたくしの果たさなければならぬ責任の一部を背負わねばならぬということでもあますわ。その義務に相応しい身分を享受する立場にクリスは――」

「まったく、これだから王族のお嬢さんは困るよなぁ」


レナさんが頭をかく。


「お子様のくせに、遊び心ってもんがないんだよ」

「まぁ、所詮、劇団のなかで最年少の考えることです」

「おりこうさんじゃなくて、ちょっとおバカの方がボクは楽しくて好きなんだけどなぁ」

 イザベラ姉さん、マイラ、ミアもレナに続く。


 両手を腰に当てると、座長は膨れて見せる。


「みなさま、わたくしに対する扱いが雑すぎます!」

「ハイハイ。気を付けます」


 レナさんは座長を軽くあしらう。


「レナ、その軽い扱い、許しませんわよ」


 そう言いながらも、座長の顔に笑顔が戻る。


「戦うと決められたのなら腹は決まっているはずです。それに、そんなにルールがお好きというのなら、座長は分かっているはずです。軍人は王室とは別のところで入隊の試験を行います。女性である座長の付き人は女性でなければなりません。ですが、それなりの身分でよければ、座長には可能なはずです」


 そういって、レナさんは自分の剣を差し出す。

 だが、それを取ろうとして、座長は躊躇した。

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