第40話 魔獣、復活! その3
「キャンベル様! ――何も心配ありません。お戻りくださいませ! すべて私が解決して見せます!」
クラークは何度も首を横に振ると、馬を走らせて向かってくる男を無視。
暴れる魔獣へと突っ込んでいく。
「くたばれぇぇっ!」
制御を失った魔獣の巨大な尻尾がクラークを狙う。
「戻ってこい! お前まで失うわけにはいかんのだ!」
「ぐああぁぁぁぁっ!」
魔獣のしっぽに軽く吹き飛ばされ、クラークの身体が大きく宙を舞う。
暴れる魔獣の前では人間の存在はあまりに弱すぎるのだ。
キャンベルは巧みに馬を操り、暴れる魔獣を躱しながらクラークを回収する。
そして、座長のところまで馬を走らせてきた。
「ティアナ・ダフィール王女、この度は、大変失礼を――」
キャンベルは馬を下りると膝をつき、服従の姿勢を取る。
しかし、敵意がないことが確認できると座長は手のひらを向ける。
そして、それ以上の発言を制止させた。
「あなたは、この地を治めておられるアイガー卿こと、ロビン・キャンベル殿ですわね?」
「はい、いかにも。この度は――」
「些末なことです。問題ありません。それより、時間がありませんの。あの魔獣を倒す方法はあるのですか?」
座長は解決策を求めるも、キャンベルは悔しそうな顔で小さく首を横に振る。
「魔獣ダウラギリの鱗は魔法を通さないことで知られていますが、剣や爆発物にも強い。そのため、私の祖先も剣士でありながら、魔法による封印という手段を取らざるを得ませんでした」
「なるほど、鉄壁の守り、ということですわね。では、今から封印は可能ですか?」
「はい。見たところ、あの魔獣、完全な状態ではないようです。かつて、私の祖先も弱点を見極め、弱体化の後に封印を行いました。今なら封印は可能かと思います」
「分かりました。それでは、さっそく――」
「ちょっと待ってよ!」
僕は座長たちの会話に割って入る。
「魔獣を封印すれば、クレアはどうなるんですか?」
「クレア、とは?」
魔獣復活までの詳しい状況までは聞いていなかったのだろう。
キャンベルが怪訝な顔で僕を見る。
「キャンベル殿」
そう呼びかけて、イザベラ姉さんが解説を始めた。
「あたしの見立てではあの魔獣復活の術式は、まず一人の少女をエネルギー受容体としてマナの許容量を限界まで押し広げる。そして、他からエネルギーを集めながら、第一段階としてその封印を解放。再度、エネルギーを集めながら、第二段階としてその少女を取り込み、エネルギーを魔獣のエネルギーとして使用する。最後に、受容体を食い尽くして補助なしで完全に自立する、という過程を経るものだと思われます」
「なるほど。クレアとはその受容体となった少女のことですか……。で、この少年は?」
キャンベルが僕を見た後、座長に問いかける。
「そのクレアさんの兄ですわ」
「そうですか……」
無言になってしまったキャンベルに、全員の空気が重くなる。
「どうなんですか! 魔獣を封印したら助けられるんですよね? そうなんですよね!」
僕は座長に対して跪いたままのキャンベルに食ってかかる。
だが、キャンベルは無言のままだ。
「構いません。あなたの考えをうかがいましょう」
座長が発言を促し、躊躇しつつもキャンベルが話を始めた。
「――承知いたしました。先ほどの話では、現在、この解放の術式は第二段階にあると思われます。魔獣の補助装置として一体化しているのであれば、当然、その少女は魔獣と共に封印され、分離することは不可能です。しかも、あの魔獣は不完全な復活でその意識は半狂乱の状態です。封印を行えば、少女の意識は永遠の時の闇の中へ。しかも、半狂乱の意識と共に落とし込まれ、干渉し続けられることにより、永遠の地獄となることでしょう……」
なんだよ、それ。何の罰ゲームだ?
今まで僕が何をしたんだよ?
王族でもないのに世界のために戦いたいと思ったことがいけなかったのか?
他の子供より、クレアだけを助けようとしたからなのか?
強くなれば助けられるなんて考え自体が傲慢だったってことなのか?
そもそも盗賊に襲われたときに生き残ろうとして逃げたのがいけなかったのか?
生きてきたこと自体がダメだってのかよ!
それが理由というなら罰を受けるなら僕だろ!
「うわあああぁぁぁぁぁっ!」
魔獣に走り出そうとした僕を、レナさんが押さえる。
「おい、待て! 落ち着くんだ、クリス!」
「放してください! もういいんだ! 昔の記憶なんかもない! 育ててくれた爺ちゃんと婆ちゃんも殺された! 妹すら助けられないんだ!」
「おい! あのクラークのジジイを見ただろ! むやみに突撃したって無駄だ!」
レナさんが暴れ、絶叫する僕を抑える。
ミアやマイラ、イザベラ姉さんまでが引き留め、抑え込む。
「ティアナ王女! 魔獣の完全復活まで、時は一刻を争います。商業都市カスターの民はもちろん、メンヒ公国、そして、その行動次第では周辺諸国にも被害が及びます。ご決断を!」
キャンベルは『魔獣の封印を選択せよ』と座長に決断を促す。
だが、座長はまだ十分に動けずにいる魔獣と、暴れて抑え込まれる僕を見比べながら、真っ青な顔をしていた。
「キャンベル殿! 先ほど、あなたの祖先が魔獣の弱点を見極め、弱体化させたとおっしゃらなかったか?」
僕を抑え込みながら、レナさんがそんなことを言う。
「確かに」
「では、弱点があると、そういうことだな?」
レナさんが念を押す。
「いかにも。あの全身を覆う鱗の防御は鉄壁。だが、その保護が薄くなっている部分があるのです。見てのとおり、魔獣の目は三つ。そして、その中央の目は魔獣の生体マナと直結しており、第三の目を潰すことができれば倒せるはず」
レナさんは僕を他のメンバーに任せると、キャンベルの隣に来てひざまずく。
「座長! それなら、私がその魔獣の目を潰してきます!」
キャンベルは手を差し出して制止する。
「いや、それは難しいと思われます! かつて、私の祖先も剣士として討伐のために戦いました。だが、薄いとはいえ、鱗と同じ保護膜で覆われている目には魔法はもちろん、簡単には刃は通りません。物理的な衝撃波で弱体化に成功したに過ぎないのです。時間がありません! ティアナ王女、ご決断を!」
「キャンベル殿の祖先に力がなかったというつもりはありません。私が上だと自惚れるつもりもありません。ですが、万全の状態から弱体化させるのと、弱体化している状態から討伐するのでは状況が異なります。倒せるとするなら、今しかありません! 座長、決断してください!」
レナさんも必死に訴えた。
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