第39話 魔獣、復活! その2
「レナ、イザベラ、ミア、マイラ、ここへっ!」
座長の一声で、メンバーが集められた。
「あの男はもうダメですわ。わたくしたちだけで魔獣を倒さねばなりません」
魔獣が動き出す。
そして、城壁を超えてカスターの中心市街地へ足を踏み出した。
「あの魔獣を市街地に行かせてはなりません! 全力で阻止しなさい!」
「「「「はい!」」」」
メンバーが走り出す。
それを見て、僕は周囲に目をやり、倒された盗賊が使っていた剣を見つけた。
その剣を手に取り、そして、レナさんの後について走り出そうとした。
「ダメです! クリス、あなたは行ってはいけません!」
座長が僕の腕をつかむ。
それを見て、メンバーの足も止まり、振り返る。
「なぜですか! 僕も戦えます!」
「ダメです。あなたは、わたくし達とは違うのです」
「違うって……、それじゃ、僕はみんなと戦えないんですか!」
「そうです! もはや戦乱の時代ではありません! わたくし達はこの旅を始める前に覚悟を決めました。この戦争の責任者として、この後始末は王族と、その配下の者であるわたくしたちだけでやらねばならないのです」
「そんな……」
なんで、どうして、ここまで来てダメなんだ。確かに、僕は王族でも何でもない。だけど、僕だってみんなと戦いたいんだよ。
否定され、僕の中の気力が失われてゆく。
短い時間だったけど、一緒にやってきたじゃないか。ここにきて仲間外れなんて、酷いよ。
魔獣はフラフラしながら町へ向かって歩く。
状況はどんどんと悪くなっていく。
「アイツ――、まだ完全復活じゃないな」
地面に手を触れ、魔獣を見ながらイザベラ姉さんがつぶやく。
「どういうことですの?」
座長が尋ねる。
「まだ魔獣に生命エネルギーが供給され続けているのを感じます。不完全な術式のおかげで、初期エネルギーの供給不足が起きているのでしょう。ですが、まだ供給され続けているということは、子供たちにも生命エネルギーが残されているということ。そして、魔獣の力も完全ではないということです」
「では、急がねばなりませんわね」
「あの魔獣の鱗は魔法を跳ね返すらしいからな。イザベラではなく、ここは私が倒すしかない」
レナさんが剣を握りなおす。
「みなさん、一刻も早く魔獣を倒すのです!」
座長の言葉に、僕を残してレナさんとミアは魔獣に向けて駆け出した。
「あいつの鱗は魔法を跳ね返すらしいが、魔法を通そうとしなけりゃいいんだろ?」
両手の手のひらを地面につけると、イザベラ姉さんが魔獣を睨む。
「世界の元素たる水を操りし精霊たちよ。その清らかなる魂をもって、我が願いをかなえよ。この日、この時、この瞬間。この場所に在りし全ての水をもって、全てのものを極寒の空間へと閉じ込めたまえ!」
イザベラ姉さんの両腕に電撃のようなマナがほとばしり、地面へと流れ込む。そして、魔獣の足元に大きな魔法円が現れると、六本の足に氷が形成、その動きを止めさせた。
「流石はインチキ魔術師! やるな!」
レナさんが走りながら言う。
「無駄口叩いてないで、早く行きな! あんたの剣が鈍らかどうか、この目で確かめさせてもらうからね!」
「二人とも素直じゃないねぇ」
ミアがレナさんの後を追いながら、イザベラ姉さんたちに向けて言う。
「それじゃ、行くぜ! 攻撃を受けやすい外側の背中に防御を集中させるとするなら、ここでどうだ!」
魔獣の腹を狙った、レナさんの渾身の一撃。
だが、魔獣の全身をびっしり覆う硬いうろこは、腹であっても彼女の刃を跳ね返した。
「なんだよ、この硬さは!」
魔法だけではない。
その強靭なうろこは鋼の剣をも簡単には寄せつけない。
魔獣はグイっとレナさんに顔を向けると、額の目が赤く輝く。
そして、大きく口を開けたかと思うと、巨大な火球を放った。
ミアがレナさんを突き飛ばす勢いで救出。
レナさんが立っていた場所は魔獣の業火が吹き荒れた。
「ほら、ぼぉ~と立ってちゃダメだよ」
「ミア、ありがとう。――しかし、あの鱗は手ごわいぞ」
二人は素早く魔獣から距離を取った。
先ほどまで呆然と立ち尽くしていたクラークが狂ったように笑い始める。
「お前らのような、無能なアルテアの人間に、あいつを倒すことはできぬ! 破壊しかしてこなかったお前らに、この町を守ることなどできぬっ! できぬのだっ! これは我々の、我々の使命なのだ!」
クラークがフラフラと魔獣に向かって歩き出す。
「おい、ジジイッ! 危ないぞ、戻れ!」
イザベラ姉さんがそう言うも、クラークは落ちていた剣を取ると魔獣に向かって走っていく。
魔獣を使った企てに失敗し、信用した相手に裏切られ、憎しみを抱いていた相手が魔獣を倒して町を守ろうとする。自分にはできないと分かっていても逃げるわけにはいかないのだ。
「待て! クラーク! 待つのだ!」
その声に、クラークがハッとして立ち止まる。
そこには馬上でマントを翻し、颯爽と馬を走らせながら、向かってくる男が叫んでいた。
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