第35話 城跡 その3

 「おやおや、ここは領主直轄の管理地。部外者は立入禁止ですぞ。何をしているのかな」


 城跡の地下室から出ると、中庭には兵士が僕たちを待ち構えていた。

 正規軍の鎧を着た兵士が、総勢20人は超えているだろうか。

 その中央には白髪の老人。領主代行事務所で見たクラークだ。


「あなたが今回の首謀者、という訳ですね? わざわざのお出迎え、ご苦労様ですわ」

「ほぉ、随分かわいいお嬢ちゃんだ。確か、先日、事務所にも入り込んでいたような――。いや、もっと昔に会ったことがある気がする……。まぁ、いい。お嬢ちゃんが責任者というわけかね」


 クラークは不敵に微笑みを浮かべる。


「あら、随分と記憶力がよろしいですわね。確か、今は領主代行サミュエル・クラーク殿でしたか。では、領主直轄の、この地下に何があるのかも、当然、ご存じということでよろしいですわね?」

「もちろん。それは、我々の希望だ」

「何が希望だ! 小さな子供たちを誘拐して閉じ込めているんだろうがっ!」


 僕は背負ったクレアを見せるように言う。


「おやおや、これは困りましたな。領主直轄地にあるものは、領主様の物。勝手に持ち出すことはでないのだがね」

「何だとっ!」


 座長が、さっと手を出して僕を制止する。


「一国の領主が行うにしてはあまりにも卑劣ですわ。このことは領主のアイガー卿もご存じですの?」


 クラークは首を横に振る。


「いいや。今夜、キャンベル様がカスターにお越しになられる。そこで、我々の希望をお示しするのだ。私はこの日のために準備してきた。邪魔はさせぬ」


 そう言うと、クラークは高らかに腕を振り上げる。


「さぁ!あの賊を成敗せよ!」

「「「おぉ!」」」


 クラークの号令のもと、正規軍がロングソードを抜くと一斉に向かってくる。


「問答無用ですか、やむを得ません。レナ、イザベラ、ミア、マイラ、お仕置きの時間ですっ!」

「「「「はい!」」」」


 一緒に動こうとした僕に、座長が諭すようにやさしく語りかける。


「クリス、あなたは一歩下がって妹さんを守りなさい」

「でも、座長――」

「ダメです。妹さんを守ってください」


 座長との約束だ。もう手を出す訳にはいかない。


レナさん、ミアが兵士たちの中へ突っ込んでいく。

それを、僕は悔しい気持ちで見ていた。

 

ミアは鎧の上から強烈なパンチを浴びせる。

レナさんも相手の剣を躱して、蹴り飛ばした。

相手の兵士を一人、また一人と倒していく――。


確かにクレアのためにここに来た。だけど……。


何もできないままメンバーの活躍を見る。

でも、そんな心配は全く不要だったのかもしれない。


僕の戦力を全く必要とすることなく、レナさんたちは敵を倒していく。

クラークはレナさんたちに振り回される兵士たちに苛立っていた。


「おい! 賊ごときに何をやっているかっ!」

「「「おぉっ!」」」


 兵士たちの雄たけびが上がる。気持ちは折れていない。

 さすがに、一国の正規軍。

 レナさんたちも苦戦し始める。


「あんただけじゃ、ダメだね」


 イザベラ姉さんが両手を前に向けると、魔法円が展開。

 無詠唱でファイアーボールを飛ばす。

 その横ではマイラが弓で援護を開始した。

 おかげで、レナさんたちが押し返し、しばらくして大勢が決する。


「そろそろいいでしょうっ!」


 座長の言葉に、メンバーは攻撃を止める。

 それを見て、警戒しつつも兵士たちも距離を取った。


「うぬぬ……、お前たちは一体……、はっ! お、思い出したぞっ!」


 クラークは座長を指さして続ける。


「成長して雰囲気が変わったが、お前はアルテア統一王国の第三王女、ティアナ・ダフィールド!」

「いかにも」


 座長が答えると、兵士たちの間にどよめきが起こる。

 その間に、さっとレナさんが座長の側に駆け寄った。


「こちらはアルテア統一王国の第三王女、ティアナ・ダフィールである。これより剣を向けるものはアルテア統一王国に仇なす不届き者とみなすぞ!」


 レナさんが宣言すると、兵士たちは全員クラークの後ろへ回り両膝をつく。


 座長が、この大陸全土を統一したアルテア統一王国の王女だなんて。


 クラークも歯をギリギリと食いしばり、両手を強く握る。

 座長はこの場の全員が注目を向けるのを確認する。


「クラーク殿、わたくしを覚えていましたか。薄らではありますが、わたくしもアルテア・メンヒ講和条約の締結の際に、アイガー卿の宰相として立ち会われていたことを覚えていますわ」


 座長に目を合わそうとせず、クラークは両手を握りこむ。


「――昔話をする雰囲気でもないようですわね。よろしい、それでは本題にまいりましょう。ここの地下に多くの子供たちが捕らえられています。未来を担う子供の笑顔のない国にこの先の繁栄はありません。どういうことですか」


 しばらく無言だったが、クラークは肩を震わせ、急に高笑いを始める。

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